前十字靭帯の構造と機能について【リハビリに必要な基礎知識】

前十字靭帯損傷は、スポーツによる受傷割合の中でも頻度が高く、リハビリで対応する機会も多くあります。

前十字靭帯損傷のリハビリを適切に行うためには、前提として、その構造と機能を理解しておく必要があります。

ここでは解剖学的・運動学的な視点を中心に、前十字靭帯についてご紹介させていただきます。

前十字靭帯の位置

前十字靭帯の付着部

前十字靭帯(anterior cruciate ligament=ACL)の付着部は次の通りです。

  • 脛骨の顆間区の前部にある“くぼみ”
  • 大腿骨顆間窩の外側壁(外側顆の内側面)

 

前十字靭帯と膝関節の位置関係

『前十字靭帯は滑膜に覆われている』と表現されることがあります。その通りなのですが、誤解しやすい部分をご紹介します。

まず、下の模式図をご覧ください。

これは大腿骨を切り放し、脛骨の関節面を上から見ている図です。

前十字靭帯は滑膜(内膜と内膜下層)で囲まれているので、『滑膜に覆われている』というのは正解なのですが、滑膜外に存在しているということに注目する必要があります。しかし、繊維膜に対しては内部に存在しています。

よって、次のことが言えます。

『前十字靭帯は関節包内には存在しているが、滑膜外にある』

このことは、誤解しやすいため注意が必要です。

前十字靭帯の2つの繊維束

前十字靭帯は、機能的には次の2つの繊維束に分かれています。

  • 前内側繊維束(antero-medial bundle=AMB)
  • 後外側繊維束(postero-lateral bundle=PLD)

 

これらの2つの繊維束は、脛骨上の相対的付着部により名前が付けられており、互いに捻じれ合う関係にあります。

前内側繊維束は最も外傷を受けやすく、全可動域において緊張しています。特に膝関節屈曲位で強く緊張します。

後外側繊維束は、膝伸展すると緊張し、屈曲すると弛緩します。そして完全伸展すると、いっそう強く緊張する傾向にあります。また後外側繊維は細くはありますが、前内側繊維束に覆われる構造をしており、部分断裂では残存します。

前十字靭帯全体としては、膝伸展位で緊張が強く、屈曲初期(軽度屈曲位)では緊張はやや弱まり、屈曲角度が大きくなるとまた緊張が強まる(前内側繊維束により)構造となっています。

前十字靭帯の損傷では、これら2つの繊維束のそれぞれの機能を重視します。

そのため、前十字靭帯損傷後の再建術では、この正常な解剖学的な特徴に近い術式(解剖学的二重束再建法)がより安定性が高く理想とされています。

前十字靭帯の走行

脛骨から見た前十字靭帯の走行としては、斜め上方(後方・上方・外側)に向かって大腿骨に付着しています。

前十字靭帯の走行を理解することは、リハビリを行う上で重要です。

僕は、後十字靭帯の走行と混同して迷ってしまった際には、次のように思い出しています。

memo
大腿外側部を真横から手掌で掴んで、示指を膝蓋骨下端へ向ける

簡易的なものですが、そうすると上の図のように前十字靭帯の走行に似たような方向を、示指で表すことができます。

前十字靭帯の機能

3つの制御作用

前十字靭帯の機能は以下の通りです。

  1. 大腿骨に対する脛骨前方移動制御
  2. 膝関節内旋制御
  3. 膝関節過伸展制御

特に、脛骨の前方制動力は80パーセント以上を占めるとされており、前十字靭帯断裂では容易に脛骨は前方へ変位します。

脛骨の前方移動の制御とともに、前十字靭帯は後十字靭帯とともに膝関節内旋を制御する作用もあります。また、前述したように、前十字靭帯の2つの繊維束は、共通して膝の過伸展防止にも役立ちます。

膝関節の副運動に貢献

膝関節が正常に屈曲・伸展するには、関節の副運動が必要です。

すなわち、『転がり』『すべり』が合わさって初めて、大腿骨顆は脛骨の関節面の上をスムーズに動くことができます

大腿骨顆部は丸い形状をしてるために、膝の動きに伴う『転がり』の運動は容易に想像できますが、『滑り』が起きるには何か他の要素による作用が必要となります。

その中でも、前十字靭帯(ACL)は膝の屈曲時における『すべり』の運動に大きく関与しています

もし前十字靭帯が機能しなければ、『すべり』が不十分となり、膝屈曲に従って大腿骨は脛骨後方へ転がり落ちるように移動します。すると、半月板の後方部への圧縮ストレスが増大します。

このことは、前十字靭帯損傷後に続発しやすい半月板損傷の受傷メカニズムを部分的に説明しています。

半月板損傷のメカニズム(受傷機転)について

まとめ

前十字靭帯損傷はスポーツ障害の中でも頻度が高く、リハビリにおいては日常的に遭遇する疾患です。

構造を知ることは機能を理解することにつながり、機能を知ることは構造を理解することにつながります。

保存療法においても手術療法後のリハビリでも、その基礎となる知識を持つことで、より効果的な運動療法の選択やリスク管理を行うことが可能になります。