前十字靭帯損傷術後のスクワット運動などのリハビリについて

前十字靭帯(以下ACL)損傷の術後リハビリでは、関節拘縮の予防や筋力強化、スポーツ復帰を目指した動作訓練が行われます。

そして、その前提として考える必要があることは、再建した靭帯の再損傷の予防です。

ACL再建術後のリハビリについてはプロトコル化が進んでおり、施設間での多少の差はあれど、ある一定の基準が確立されつつあります。

ここではスクワット動作を中心に、リハビリを効果的に進めるためのポイントについてご紹介していきます。

 術後リハビリの注意点

再建靭帯への負荷に配慮する

ACL損傷後の手術療法では、再建術として主にSTG法とBTB法の2種類から選択されます。

前十字靭帯損傷の手術(STG法・BTB法)の特徴と、その後のリハビリへの影響

そのリハビリでは、再建した靭帯の修復過程に応じた運動療法が行われることになります。

再建された靭帯(=移植腱)は、術後一旦虚血性壊死に陥り、その後再血行が起こることで再建靭帯はリモデリングされると言われています。また、再建した靭帯を通すために空けた骨孔の中で、癒合が得られるのも時間が必要です。

運動療法の基礎

炎症への配慮

ACL再建術後には、膝の熱感・腫脹・疼痛・発赤といったいわゆる炎症が起きます。そのため、アイスパックなどを用いたアイシングや、弾性包帯を用いた圧迫などを行います。

炎症の延々と長期間の不動は、組織の拘縮や組織間の癒着につながる恐れがあり、その後のリハビリへ悪影響を与えるので注意が必要です。

強い負荷の運動メニュー

再建靭帯が骨孔周辺で癒合し、力学的強度が得られるのは、約術後12週以降であると言われています。

よって、膝への負荷が加わるような運動メニュー(屈曲角度の大きなスクワットやスピードのあるランニング、片脚バランス訓練など)を行うのは、それ以降が好ましいでしょう。

可動域訓練

また、可動域訓練に関しても、術後12週までは屈曲120°を大きく超えるような訓練は控える必要があると言われています。

伸展可動域訓練に関しては、術後1週目までは-10°~-20°程度の制限を行うことが多い傾向にあります。しかし、術後のリハビリで注意すべきことの一つとして、屈曲拘縮が挙げられます。屈曲拘縮を引き起こさないためには、医師から許可を得た上で、可能な限り早期に伸展0°まで可動域を拡大していく努力が非常に重要です。

実際の可動域訓練は、膝蓋骨のモビライゼーションやヒールスライドなどを早期から開始していくことになります。

特に重要なのは、膝蓋下脂肪体の柔軟性の改善です。

OKCトレーニングでの注意点

大腿四頭筋の単独収縮による負荷

ACL再建術後には、大腿四頭筋の筋力低下が問題となりやすく、スポーツ復帰を遅らせる原因となり得ます。

筋力トレーニングは、スクワットのように足を地面に接地させた状態で行うCKCトレーニングと、レッグエクステンションやレッグカールといった足を地面に接地せず行うOKCトレーニングに分けられます、

OKCトレーニングとして大腿四頭筋の筋力訓練を行う場合には、膝の屈曲角度に注意する必要があります。

膝屈曲70°以下の伸展位で行う大腿四頭筋の単独収縮では、脛骨の前方への“剪断力(平行にすべらせるような力)”が作用することで、再建靭帯へに負荷が加わります。

より安全な方法

よって、CKCによる大腿四頭筋筋力訓練では、膝屈曲70°以上の屈曲位において、等尺性収縮から開始することが安全であると言われています。

ちなみに、大腿四頭筋とともにハムストリングスを同時収縮させるような動作は脛骨の前方剪断力は小さく、ACL術後にはOKCよりもCKCでのトレーニングの方がリスクが低いと言えます。

そのことから、特にクォータースクワットなどは再建靭帯への負荷が小さいために早期から、ハーフスクワットは術後4週くらいから実施します。

 スクワット動作の注意点

ACL再建術後のリハビリでスクワット動作を指導する際には、次のようなことがよく言われます。

「体幹と下腿が平行になるようにしましょう」

これはなぜでしょうか?

膝関節屈曲時の動き

膝関節というのは、脛骨の関節面(脛骨プラトー)を平面だとすると、大腿骨の顆部は球形をしています。

骨の形状上、脛骨の関節面は後方に向かうにつれて下方へ傾斜しています。

膝屈曲動作における副運動としては、『ころがり』と『すべり』が起きるわけですが、大腿骨顆部が後方へ『ころがる』際に、ACLは大腿骨顆部が後方へ落ち込まないよう前方へ『すべり』を生じさせる役割があります。

前十字靭帯の構造と機能について【リハビリに必要な基礎知識】

当然スクワット動作は膝の屈曲が起きるわけですから、ACLにこのような負荷が加わる可能性があるわけです。

脛骨の前傾を意識する

このような機能によるACLへの負荷を下げるためには、大腿骨顆部が後方へ落ち込まないように、脛骨関節面の平面を前方へ傾けるのが効果的です。

下腿を前方へ傾斜させることで、平面である脛骨の関節面上を球形の顆部は重力で前に“すべり”ます。

勝手に“すべり”が起きてくれれば、それによってACLはちょっと休憩できます。

スクワットに応用

このメカニズムをスクワットの応用すると、

“体幹と下腿が平行になる”ということにつながります。

体幹と下腿が平行になっていれば、下腿は前傾していると言えます。逆に、平行になっていなければ、体幹のみが前傾しており、下腿は直立に近いかもしれません。

下の図で違いをご確認下さい。

スクワットは大腿四頭筋とハムストリングスを同時収縮させることができるので、それ自体は再建靭帯への負担が少なくはありますが、それに加えて下腿の傾斜角度も評価すると効果的です。

膝の外反と回旋にも注意

もう一つ追加するならば、再建靭帯への負荷は膝外反と下腿回旋で強くなります。

これは受傷機転からも言えることです。

前十字靭帯損傷の受傷機転(メカニズム)について【危険な動作や肢位】

よって、以下のことにも注意した方が良いかと思います。

  • 足部の接地する幅は肩幅程度にする
  • 膝の内反・外反が起きないようにする
  • 下腿が内旋・外旋(特に内旋)しないようにする

まとめ

今回ACL術後リハビリのポイントをご紹介しましたが、ほんの一例に過ぎません。

再建靭帯の修復過程を考慮した上で、解剖学的・運動学的な視点で再建部へ負荷がかかりすぎないような運動療法を、工夫して展開していくことが重要です。