リハビリの現場で日々飛び交う用語として、【拘縮】が挙げられます。
ここでは、拘縮の基礎知識とリハビリに関連する情報をまとめてお伝えします。
拘縮とは?
拘縮とは、一般的に関節が他動的にも自動的にも動かなくなることを指します。
その際には、一般的には『関節拘縮』と呼ぶことになります。
人体の各関節は、それぞれ動きが異なります。例えば、肩関節や股関節は球関節の仲間に属しており、多軸性で屈曲・伸展・内転・外転・内旋・外旋など自由に動きますが、肘関節は単軸性の蝶番関節であり、屈曲伸展しか動きません。
このように、それぞれの関節によって動く範囲は異なりますが、そのどちらの方向にも拘縮は起きうるのです。
『拘縮』の概念について、理学療法士の間で使用のニュアンスが違うことがあります。単なる筋肉の『短縮』による関節可動域制限を、『拘縮』と呼ぶのは適切ではないと考える方も多くいます。一般的には、軟部組織が瘢痕化もしくは癒着した際に出来上がるような関節可動域制限を『拘縮』と呼ぶという認識です。
しかし、いくつか文献を渉猟しましたが、『筋の拘縮』『筋の短縮』どちらも使用している例があり、現時点では使い分けは困難であるように感じます。
重要なのは、『拘縮』という表現で関節可動域制限を表すときには、ニュアンスとして改善に難渋する可能性があることが、暗に言葉の中に含まれているということでしょう。
拘縮の呼び方
拘縮の呼び方としては、伸展できなくなったものは「屈曲拘縮」、屈曲できなくなったものは「伸展拘縮」といった具合に呼びます。
「伸展できないのに屈曲(拘縮)?」
といった疑問が生まれるかもしれませんが、“屈曲位で拘縮した”という意味でこのような呼び方をするわけです。
拘縮の原因
拘縮の原因は、大きく分けて以下の4つがあります。
1:筋性拘縮
2:靭帯性拘縮
3:皮膚性拘縮
4:関節性拘縮
1:筋性拘縮
筋性拘縮は、大きく2つの要因があります。
1つは、脳梗塞や脳性麻痺などの中枢疾患などにみられるような、痙縮などによる外因性の問題です。
2つ目に、外傷や筋の炎症、変性などによる内因性の問題もあります。
筋性拘縮の中には、筋膜による伸張性の低下の問題も含まれます。不動により筋膜のコラーゲン繊維同士が接近し合うと、それらが短縮したり肥厚したりすることで架橋結合してしまうとの報告もあります。
2:靭帯性拘縮
靭帯は、それだけで伸び縮みする組織ではありません。
よく、理学療法士の学生が、「靭帯の伸張性が~。」という表現をすることがありますが、それは誤りです。
靭帯はロープのような組織であり、『張るか張らないか』だけの役割です。
しかし、その靭帯も、炎症や周囲組織の影響により、拘縮を起こすことがあります。それは、『ピンと張れなくなった状態』を指します。
3:皮膚性拘縮
熱傷や手術創、外傷などにより、皮膚性の拘縮を起こすこともあります。
皮膚も実は関節可動域制限を起こす、立派な因子となります。
熱傷の場合には、1度~3度という分類で重症度が分けられています。一番重度の3度熱傷の場合には、皮膚がケロイド状になることもあり、瘢痕化した組織は伸張性を失い、動きに制限が出ることがあります。
皮膚に関しては、リハビリ分野でも近年注目されています。皮膚の運動学として書籍も出ていますので、参考にしてみてはどうでしょうか。
4:関節性拘縮
関節性拘縮としては、関節包の問題が真っ先に挙げられます。
たとえば、肩関節周囲炎により凍結肩としての病態を呈した場合には、関節包の肥厚・短縮・癒着などが生じます。
関節包性の拘縮が起きると、改善しないわけではないのですが、かなり難渋することもあるので、リハビリでは根気が必要です。凍結肩では、場合によっては、肥厚して硬くなった関節包をはがすために切離する手術が必要なこともあることを考えると、大きな問題であることが分かると思います。
単軸性の関節よりも、多軸性の関節の方が一般的に関節可動域は大きい傾向にあります。よって、多軸性関節では、関節包に遊び(Joint play)はゆとりがある傾向にあります。関節包の肥厚・短縮・癒着が起きると、この関節の遊びが減少することで拘縮は完成します。
『拘縮』と『強直』の違い
『拘縮』とよく似た言葉に、『強直』という言葉がありますよね。その違いを以下にまとめました。
・骨同士による関節の問題は含まない。
・可逆性(リハビリで可動域改善は見込める)。
・不可逆性(リハビリをしても可動域改善は見込めない)。
以上のように、リハビリで対処可能なのは拘縮の段階までです。強直を改善させようと思えば、手術をするなど医師の領域となるわけです。
拘縮の評価
拘縮の評価では、一般的には整形外科的テストを用います。
例えば、腸腰筋由来の股関節屈曲拘縮がある場合には、Thomas test(トーマステスト)を使います。また、大腿筋膜張筋由来の股関節外転拘縮がある場合には、ober’s test(オベールテスト)を行います。
このような整形外科的テスト方法がない場合には、左右差を見ていくしかありません。
ROM(関節可動域)テストを丁寧に行いながら、左右の拘縮を評価わけですが、それだけでは原因は分かりません。
なぜなら、ROMテストは、「角度」という数字しか出てこないからです。そのため、各種検査を織り交ぜながら、原因特定をしていく必要があります。
いわゆるクリニカルリーズニングを行う必要があるということです。
拘縮のリハビリ
理学療法士に最も求められる役割の一つが、この拘縮の改善なわけです。
逆に言えば、拘縮を適切に改善させることが可能な理学療法士は、患者さんや医師の信頼を勝ち取ることができます。
しかし、一言に拘縮の改善といっても、その原因によって改善方法はまちまちであることを理解する必要があります。やみくもにストレッチをすればいいというわけではありません。
中には、筋の収縮訓練の方が、ストレッチよりも効果的である場合もあります。または、温熱療法などの物理療法と併用して行うべきケースもあるでしょう。
やはり、しっかりとした評価の上に治療が成り立つという原則を無視してはいけません。
まとめ
リハビリに携わる者であれば避けて通れない『拘縮』についてですが、まずは用語の使い方を理解する必要があります。
『拘縮』という用語が用いられている限り、それには理学療法士の活躍が期待されている裏返しでもあるので、確実に評価・治療ができるようになっていきたいものです。
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