胸郭出口症候群の一つである小胸筋症候群は、その名の通り小胸筋が原因となる病態です。
どのようなものかと言うと、手を挙げて作業をしていたり、つり革をつかむような動作を行うことで上肢のしびれや痛み、だるさなどを生じるものです。
ここでは、そのメカニズムや対処のための運動をご紹介します。
目次
小胸筋周囲の解剖
小胸筋の基礎
小胸筋は、烏口突起から第3~5肋骨に付着する筋肉です。
小胸筋は、肩甲骨に対して、
- 下制、前傾
- 下方回旋
- 前方牽引
などの作用があります。
小胸筋下間隙
小胸筋の深部には、トンネルのような空間が広がっています。
これを、小胸筋下間隙と呼びます。
矢状面からも見てみましょう。
小胸筋下間隙を通過するもの
小胸筋の深部には、以下のものが通過しています。
- 腕神経叢
- 鎖骨下動脈
- 鎖骨下静脈
小胸筋症候群とは?
小胸筋症候群のメカニズム
小胸筋症候群とは、小胸筋下間隙のトンネルが狭くなって神経や血管が圧迫を受けることです。
どのような時にそういった状態になるかというと、上肢を外転した際に症状が増悪します。そのことから、別名『過外転症候群』とも呼びます。
下の図を用いてそれを説明します。
- 上肢を外転させると、小胸筋を支点に腕神経叢などの走行が変わります。
- さらに、外転に伴い肩甲骨が上方回旋・後傾することで、烏口突起が後方へ移動します。
- 1と2の結果、腕神経叢などは狭くなった小胸筋下間隙に押し付けられます。
- これに小胸筋の攣縮(スパズム)が加わることで、腕神経叢などは絞扼されます。
問題点を見つけるために
小胸筋症候群の原因となっている問題を見つけるためには、次の3つを注意深く観察する必要があります。
- 肩鎖関節・胸鎖関節の可動性
- 肩甲骨周囲筋の筋力
- 小胸筋の状態
肩鎖関節・胸鎖関節の可動性
小胸筋症候群では、肩甲骨のアライメントに異常がないかを把握することが重要です。
肩甲骨は前傾・下制されている場合には、小胸筋が短縮位にある可能性があります。
または肩甲骨が後傾していれば、小胸筋は常に引き延ばされるストレスを受けており、攣縮を起こしているかもしれません。
その肩甲骨のアライメントを評価するためには、まず肩鎖関節・胸鎖関節が正常に動いているかを理解する必要があるでしょう。

肩甲骨周囲筋の筋力
肩鎖関節・胸鎖関節の可動性に影響を与えるのは、肩甲骨と鎖骨に付着する筋肉です。
中でも、肩甲骨に付着する前鋸筋・僧帽筋・菱形筋・肩甲挙筋などは、肩甲骨のアライメントに大きな影響を与えます。
よって、まずはそれらに筋力低下がないかどうかを徒手筋力検査(MMT)などで評価していきます。
小胸筋の状態
小胸筋症候群では、必ず小胸筋の攣縮の有無を評価する必要があります。
そのためには、小胸筋を触診するための技術が求められます。
触診方法については以下をご参照下さい。

筋攣縮を起こしている筋肉には圧痛が見られますので、触診で部位を確認したら、その圧痛の有無をみていきます。
運動療法
一般的な運動療法を以下に挙げます。
- 肩甲骨周囲筋のストレッチや筋力強化によるアライメントの調整
- 小胸筋のリラクゼーション
小胸筋のリラクゼーションでは、筋ポンプ作用による発痛物質除去を目的として、筋肉を軽めに大きく反復して行う筋収縮訓練を行っていくと効果的です。
また、血管拡張作用を狙った温熱療法を併用しても良いでしょう。
まとめ
小胸筋症候群は、上肢の挙上とともに出現しますので、肩関節疾患と混同してしまう可能性もあります。
肩を外転した際に痛みやしびれがあった際には、小胸筋症候群を疑うことができるように、常に頭の片隅にこの病態を入れておくのが良いのではないかと思います。