理学療法士と歩行分析は、切っても切れない関係です。
実習中から頭を悩ませることの多い、この理学療法士特有のスキルは苦手な方も多いのではないかと思います。
ここでは、歩行分析はなぜ難しいのか、そしてどうすれば効果的に行うことができるかというコツをご紹介していきます。
歩行分析とはなにか?
理学療法士が歩行動作を見る理由は、治療介入対象の問題点を見つけるためです。言い換えれば、患者さんの主訴の原因を見つけるためです。
一般的には、トップダウンとして評価初期に歩行動作をみることで問題点を予測(分析)し、歩行分析を基盤として仮説を立てることで、その後の仮説の証明(検査)へとつなげていくことが主流です。
そのために、以下のようなことに注目して動作を見ることが一般的です。
- 歩行周期
- 異常歩行
- 前額面・矢状面・水平面
- 支持基底面と重心の関係
- 体の各パーツの左右対称性
歩行分析はなぜ難しいのか?
大きく分けると、次のことに集約できます。
➁処理するべき情報量が多すぎる。
➀正常歩行の理解不足
歩行動作の異常を見つけるためには、正常を理解しておく必要があります。
これは何も、歩行分析に限ったことではありません。僕は恩師である整形外科医に、新人のころ徹底的にレントゲンとMRIの読影方法を教え込まれましたが、そのときに散々言われたことがあります。
『正常をしらなければ異常は分からない。正常な画像を各部位最低でも100枚見なさい』
これと同様に、歩行動作で異常を見つけるには、まずは歩行の基礎を学び、何百人の正常歩行を観察することが必要です。人通りの多い道などで色々な人の歩行を見て勉強しても良いかと思います。
ここでは、動画や観察による歩行分析を参考に、ランチョ・ロス・アミーゴ方式での歩行周期の特徴を載せておきます。
Initial contact(イニシャルコンタクト)
イニシャルコンタクトは、足が地面に接触する瞬間です。似ている言葉に、ヒールコンタクトという言葉もありますが、ヒールコンタクトが“踵”が先に接地することを定義しているのと比べて、つま先だろうが踵だろうが、イニシャルコンタクトはとにかく足がつくことを指しています。
よって、ここではどの部分が先に接地しているのかを見る必要があります。尖足などで足関節背屈制限があったり、前脛骨筋麻痺などがあったりすると、つま先が先に接地することとなり当然転倒リスクは高くなります。本来は足関節0°程度で接地し、ヒールロッカー機能の始まりの準備の期間となります。
Loading resonse(ローディングレスポンス)
ローディングレスポンスは、足が接地してから体重支持をする時期です。日本語訳では、“荷重応答期”というだけあって、体重の6割程度が加わる時期までを指します。どこまでがローディングレスポンスかと言うと、反対側の足が地面から離れた瞬間までです。ここでヒールロッカーが機能します。
ここでは、下肢の各関節の安定性が必要となります。例えば、変形性膝関節症にみられるようなlateral thrust(側方動揺)は、この時期に膝不安定性が原因となって生じます。また、大腿四頭筋筋力低下があればGivingway(膝折れ)が生じることもありますし、足関節不安定性があれば後足部の回内(回外)などが生じることもあります。
Mid stance(ミッドスタンス)
ミッドスタンスは、反対側の足が地面から離れ、下肢で全体重を荷重する時期です。ここでは、アンクルロッカーが機能します。リハビリの現場で、“下肢の支持性の低下”などといった表現をする際には、この局面での機能低下を指す場合が多いです。
ミッドスタンスにおいては、一時的とはいえ片脚立位となりますので、中殿筋の活動により骨盤を水平に保つ必要があります。トレンデレンブルグ歩行やデュシャンヌ歩行といった異常歩行は、中殿筋筋力低下が主要な原因となります。
Terminal stance(ターミナルスタンス)
立脚期における最終局面であるターミナルスタンスは、重心が支持基底面を超えて前方へ移動していくことで、踵が離れて反対側の足が接地をする時期です。よりスムーズな体重移動を行うために、フォアフットロッカーが機能します。前方への推進力を得るために、下腿三頭筋は収縮し、足の蹴りだしが行われます。
重心が支持基底面から離れて前方へ移動するため、比較的体幹は不安定になりやすい局面ですので、転倒不安感の強い患者さんは反対側下肢の振り出し幅が狭くなります。また、足関節背屈制限がある方も同様に反対側下肢の振り出し距離は短くなります。
Pre swing(プレスウィング)
プレスウィングでは、反対側のイニシャルコンタクトとともに、つま先が離れて遊脚期の準備をする時期です。前方への推進力がターミナルスタンスまでで得られていれば、比較的スムーズとなりますが、前方推進力が弱ければ足趾と床面とのクリアランス(距離)が確保できず、つまずきの原因となることもあります。
Initial swing(イニシャルスウィング)
イニシャルスウィングでは、つま先が床から離れて反対側の下肢と交差をする時期です。薄筋や縫工筋、ハムストリングスといった2関節筋が求心性に収縮します。通常であれば股関節屈曲と膝関節の屈曲、そして足関節の背屈が連動的に生じることで可能ですが、脳血管疾患などでみられる痙性麻痺に特徴的な分回し歩行は、この局面において床面とのクリアランスを代償的に得るために起きます。そのことに代表するように、どのように床とのクリアランスを稼ぐための動作を行っているのかを確認すべき時期です。
Mid Swing(ミッドスウィング)
遊脚期に入り下肢が振り出され、下腿が床に対して垂直になるまでの時期です。股関節・膝関節は約25°屈曲し、ハムストリングスが活動を始めることで振り出された下肢にブレーキをかけ始めます。クリアランスを維持するためにも、足関節背屈は0°程度までに保つ必要があります。
Terminal Swing(ターミナルスウィング)
下肢が完全に振り出され、イニシャルコンタクトの直前までの時期です。遊脚期から立脚期への移行を行うために、各関節の筋収縮が起きてきます。前脛骨筋が働くことで足関節は荷重への備えを行い、大腿四頭筋とハムストリングスは同時収縮を行うことで支持性を高める準備を行います。
➁処理するべき情報量が多すぎる。
歩行分析の難しさの一つとして、ここまで見てきたように、見るべきポイントが多すぎるということがあります。歩行という早い動作の中において、矢状面のみならず、前額面でも各局面の膨大な情報を目で見て頭で処理していくことは至難の業です。それを解決するいくつかのコツをお伝えします。
見るポイントを、全体像と局所に分ける
歩行分析を行うには、まずは2種類の見かたがあります。一つは、ざっくりと全体的な違和感を探し出していくような目的で見る方法と、もう一つは局所的な問題を見ていく方法です。
これは画像読影の時にも共通点があり、例えばレントゲンを見る時でも、最初は全体像を把握するために左右差や各所の骨硬化像などをざっくりと見たあとに、局所的な角度や長さの計測を行うことがあります。
歩行分析においても、前額面・矢状面を少なくとも各2回実施し、全体像を見る回と局所を見る回に分けることは必要でしょう。
焦点を機能障害レベルか、能力障害レベルかに分ける
はっきりとした目的意識をもって歩行をみることも重要です。
歩行分析をする前に、必ず問診を行ったり、Drや他部門からのカルテ情報の確認はするはずです。その中で、解決すべき問題が機能障害レベルか能力障害レベルかに分類しておくと、重視すべき先ほどの見かたが決まります(ここではICIDHで表現させていただきました)。
なぜかと言うと、解決すべき問題が機能障害レベルであるとすれば、より一層先ほど述べたような【局所】を見ていく必要があるからです。
次に、問題を能力障害レベルだとしましょう。そうであれば、今度は【全体像】の把握が必要となります。どういうことかまた例を見てみましょう。
例脊柱管狭窄症を診断された患者さんが、長時間歩けないという訴えがあったとしましょう。長時間歩けない理由は多く考えられますが、問診とカルテ情報から、『間欠性跛行とすれば腰椎伸展にて増悪する可能性があるので、骨盤の前後傾や腰椎の前彎角度、頭部や股関節のアライメントなどに異常があるのではないか?。または、活動量が減っているので下肢筋力低下が原因であるかのうせいもあるのではないか?』といった仮説を立てることができます。そうであれば、局所的というよりも、全体像をまずは重視して見ていくべきです。
このように、歩行分析を行うには、まずはその前提とした情報が必要となるわけです。その情報を基盤として、全体像をみるべきなのか局所を見るべきなのかを、治療介入対象が機能障害レベル・能力障害レベルどちらの比重が高いかによって決めていきます。
言い方を変えれば動作分析を行う段階までには、ある程度病態を予測して仮説を立てていないといけないということです。そうでなければ、漫然と動作を見るしかなく、「何となくこうかな?」といったあいまいな情報しか得られません。
ビデオ撮影をしてコマ送り再生をする
これらの歩行周期をあますことなく目で追うことは非常に困難なので、ビデオ撮影を行い、動画をコマ送りをすることで、これら歩行周期と照らし合わせて各局面において正常と比較してどうかということを見ていくと良いと思います。
まとめ
『歩行を一目見ただけで問題点が分かる』というのは、一部のエキスパート理学療法士を除いて幻想にすぎません。本来は、正常歩行を十分に理解した上で、しっかりと事前情報集めを行うという下準備を行った上で、仮説のもとに行うべきなのです。
「問診・カルテ情報・画像診断・動作分析だけで問題点が8割予想できていないと臨床では通用しない」というのが僕の恩師の言葉であり、真実だと感じています。