変形性股関節症は、軟骨の変性や摩耗による関節の破壊により、徐々に股関節が変形してくる疾患の総称です。その特徴としては、骨同士の圧縮ストレス増加による軟骨下骨の骨硬化や骨棘の形成、骨のう胞などが挙げられます。
変形性股関節症は、原疾患が明らかでない一次性股関節症と、何らかの疾患に続発して起きる二次性股関節症に分類できます。欧米では一次性股関節症の割合が多い傾向にありますが、逆に日本においては二次性股関節症が80%を占めると言われており、一次性よりも多い傾向にあります。しかし、日本においては先天性股関節脱臼で生まれる子供は減少しており、高齢化により糖尿病の頻度が欧米並みになってきていることから、今後は一次性股関節症の割合が増加してくるかもしれません。
ここでは、二次性股関節症について詳しく見ていきます。
目次
二次性股関節症の特徴
二次性股関節症の背景としては、先天性股関節脱臼や臼蓋形成不全が原因となるものが約90%を占めます。また、これは圧倒的に女性に多いという特徴があります。その他の二次性股関節症の原因としては、特発性大腿骨頭壊死症、ペルテス病、リウマチ、関節唇損傷など様々な疾患があります。
その中でも大半を占めるものが、臼蓋形成不全や軽度の亜脱臼です。それらには程度の差はありますが、通常は20歳前後で股関節周囲の痛みを訴えるケースが多いようです。
臼蓋形成不全を放置すると、荷重するにしたがって骨頭は外側上方へ偏位し、荷重接触面積が狭くなることで、関節症は進行していきます。
変形性股関節症の病期
変形性股関節症においては、レントゲン画像が非常に重要な指標なり、骨頭と臼蓋の位置関係や臼蓋形成不全の有無、関節裂隙の狭小化がどのくらい進んでいるのかなどがチェックされます。具体的には、sharp角やCE角、AHIといった数値が参考となります。
病期では、日本整形外科学会の変形性股関節症X線像評価により、
- 前股関節症
- 初期股関節症
- 進行期股関節症
- 末期股関節症
に分類されます。この分類の指標の基本となるのは、関節裂隙の状態です。
正常の股関節に求められる機能
正常の股関節であれば、『無痛性』『可動性』『支持性』といった、バランスの取れた機能が求められます。それは、同じ球関節の仲間である肩関節と似ていますが、体重による荷重を支持する機能があることで、異なる役割があります。
こちらでその点について触れています。
変形性股関節症で痛みが出る原因
変形性股関節症で痛みがでる原因は数多くあるでしょうが、代表的なものとしては、
- 関節不安定性により股関節周囲筋が連続的に過剰収縮が起きること。
- 関節軟骨の摩耗に伴い、滑膜炎を引き起こすこと。
- 軟骨下骨層の破壊や硬化によるもの
- メカニカルストレスによって引き起こされた滑膜炎によるもの
などが挙げられます。痛みというのは、神経が通っていない部分では起きません。よって、関節軟骨がただ単に摩耗するだけでは痛みは起きません。また、骨棘の形成自体が痛みの原因となることはありません。
痛みの原因となりうるのは神経支配がある組織であり、以下の通りです。
- 関節包
- 靭帯
- 滑膜
- 骨膜
- 軟骨下骨
特に変形性股関節症では、骨膜や軟骨下骨が障害を受けると痛みを感じると言われています。痛みが強く、末期股関節症で可動域制限も強い患者さんはTHAなどの手術療法の適応となります。一般的には60歳以上が適応とされていますが、重症であったり、両側に変形があるような方では、50代から手術が進められるケースがあるようです。
それ以外の方は、保存療法として、薬物治療やリハビリの適応となります。
変形性股関節症のリハビリの概要
変形性股関節症のリハビリ対象となるのは、股関節周囲の軟部組織自体や、骨盤-脊柱などへのアプローチによって改善が見込めるレベルのものですが、多くは患者さんの症状次第といったことになります。
一般的には、体重のコントロールや杖や歩行器の使用、過度な股関節の使いすぎの禁止、股関節外転筋を中心とした筋力強化訓練が行われます。
私の変形性股関節症のリハビリ方針
リハビリの方針は、主に2段階に渡って実施します。
- 局所の疼痛の改善
- 変形進行の予防
本来は、股関節外転筋を中心とした筋力トレーニングを行いたいところではあります。しかし、痛みがある状態で積極的な筋力訓練はできません。逆効果になることもあるので注意が必要です。
まずは、局所的な疼痛原因を探り、その解決を行うことが優先です。変形性股関節症では、関節応力が1ヶ所に集中することや、関節不安定性や炎症を背景として、股関節周囲筋が筋攣縮(スパズム)を起こしているケースがほとんどです。そして、それが痛みに直接的・間接的に影響を与えています。
そこで、まずは、どの筋に攣縮が生じているかを確かめる必要があります。
股関節周囲筋の評価
基本的にはROM検査とMMT検査、整形外科的テスト(Thomas test、Ely test、Ober test、Patrick test、SLR testなど)を行いますが、それだけでは十分ではありません。それに加え、丁寧な圧痛所見を取っていく必要があります。
筋肉が攣縮(スパズム)を起こしている場所というのは必ず圧変化を加えると痛みを生じます。
逆に、痛みを生じている部分を見つけるためには、圧痛所見が非常に重要となります。
狙った筋肉を緩められるか
問題となる筋肉を見つけたら、次はその筋肉の攣縮(スパズム)を改善させなければいけません。しっかり狙った筋のリラクセーションを行い、緩められるかということが重要となります。
そのためには、
- 温熱療法
- 痛みの出ない範囲での等尺性収縮
- 反回抑制を利用した反復収縮
- スタティックな持続伸長
などを行います。このあたりは、各理学療法士で手技は異なる部分があるかもしれません。目標とするものが同じであれば、どのような方法を使うかはさして重要ではないと僕は考えています。
変形進行の予防
ある程度痛みが落ち着けば、変形進行の予防を行います。変形進行予防のために重要な要素は
- 筋力強化
- 骨頭被覆量の増大
- 杖や歩行器の使用の検討
- 減量
こういったことが挙げられます。上から順に重要だと感じているものを列挙しました。
筋力強化
筋力強化訓練は、主に中殿筋を中心とした股関節外転筋に対して実施しますが、重要なポイントは、攣縮(スパズム)を引き起こさない程度に行うことに尽きます。
せっかく攣縮を改善させたのに、高負荷でトレーニングすれば、必ずまた元に戻ります。なぜなら、股関節症は不安定性を伴うので、過剰な筋収縮を引き起こしやすいからです。
よって、まずは自動介助運動から始め、徐々に自重をつかったトレーニングに切り替え、最後に負荷をかけた運動を行うといった段階を踏むべきです。いきなり重錘やマシンを使ったような運動は好ましくありません。
骨頭被覆の増大
変形性股関節症の背景には、被覆率の減少があります。背景に存在する臼蓋形成不全などにより、関節接触面積は減少しており、関節に加わる応力も集中化しています。
そこで、骨頭被覆を増大させるために、骨盤傾斜を利用します。一般的に、骨盤前傾すれば骨頭の被覆率は増大します。端坐位なので、骨盤の前傾運動を学習させていきます。場合によっては腸腰筋や腰部多裂筋といった骨盤前傾につながる筋のトレーニングを交えても良いでしょう。
端坐位での骨盤前傾運動を覚えれば、次に立位にて骨盤前傾を促していきます。ただ、脊柱の不可逆的な変形(腰椎後彎変形など)がある場合には、この方法は使えません。また、骨盤前傾は腰椎前彎を伴いますので、腰部の伸展時痛を伴うような腰痛を持っている患者には適していません。
杖や歩行器の使用の検討や減量を行う
そのような場合には、杖や歩行器の使用を検討していきます。これらの自助具を活用することで、股関節への負荷を減少させることができます。
また、減量は根気が必要ではありますが、長期的にみて効果は必ずあるので、トライしてみる価値はあるでしょう。
まとめ
変形性股関節症のリハビリアプローチは、未だゴールドスタンダードというものは明確になっておらず、今後も続けて研究が必要な分野であると感じます。
今回の記事が皆様の何らかの参考になれば幸いです。