『背中が丸くなってるよ』
家族や他の人から指摘されて、改めて鏡を見てみると確かに背中が丸くなった気がする。そういった悩みを持った方は少なくありません。
人間は加齢とともに背中が丸くなりやすく、その変化は女性の方が起きやすい傾向にあります。
今回は、特に高齢期における『背中の丸まり』について、その原因や対策をご紹介します。
目次
そもそも、なぜ背中が丸くなる?
人間の背骨は横からみるとS字状をしており、理想的な立位姿勢でも、背中(胸椎)は約40°後方へ弯曲しています。
この弯曲角度が過度に大きくなると、『背中が丸くなる』ように見えるのです。弯曲が大きくなった背中は、その見た目から円背(えんぱい)とも呼ばれます。
円背の2つのタイプ
円背には、大きく次の2つの種類があります。
- 伸ばそうと思えば背中が伸びるタイプ
- 伸ばそうと思っても背中が伸びないタイプ
1は機能的な円背とも呼ばれ、姿勢の問題が主体であることが多いです。背中を中心とした背部の筋力低下や日常生活上の習慣などが原因です。リハビリや日々の生活の注意によって改善が期待できます。
2については、構築性(骨の変形などを伴う)の円背である可能性があります。その背景の多くには、骨粗鬆症とそれに伴う圧迫骨折などがあります。これは『いつのまにか骨折』とも呼ばれ、背骨の一つが骨折として潰れてしまうと、芋づる式に上下の背骨も潰れてしまうことで、結果として背中が丸くなります。伸ばそうと思っても背中が伸びない方は、まず医療機関を受診することをお勧めします。それがきっかけで骨粗鬆症の発見につながるかもしれません。
圧迫骨折について具体的に知りたい方は、こちらの記事を参考にして下さい。

今回の対象
今回対策をご紹介するのは、伸ばそうと思えば背中が伸びる方、もしくは医療機関を受診した結果、今現在は大きな問題がないと言われた方を対象としています。
円背で生じるデメリット
背中が丸くなることによるデメリットを列挙してみます。
- 腰背部の痛み
- 肩こり
- 食欲減退
- 呼吸機能の低下
- 転倒リスクが増す
- 下肢関節への悪影響
痛み
背骨はS字をしていますので、1か所の角度が大きくなれば、他にも必ず影響が起きます。その多くは、頸部痛や腰痛、肩こりといった症状として現れてきます。
胸部・腹部への影響
また、背中が丸まるということは、腹部・胸部の圧迫も起きます。それにより、内臓が圧迫され食欲が減退したり、胸郭(肋骨など)の動きが制限されて呼吸機能の低下につながります。
転びやすくなる
さらに体幹の動きが制限された結果、バランス感覚が低下し、転倒のリスクが増すとも言われています。転倒による骨折は、寝たきりの大きな要因となりますので注意が必要です。骨粗鬆症を伴う場合には、よりハイリスクになるでしょう。
下肢関節への悪影響
円背姿勢は、下肢の変形性関節症の発生や進行の要因となることがあると言われています。例えば、少し難しい話ですが、背中が丸くなると骨盤は後ろに傾きやすくなります。すると、股関節の被覆量(関節の接触面積)が減少し、関節の負担が強くなることがあるのです。
このように、円背は伸長の低下や見た目だけでなく、様々な問題を引き起こすきっかけになるのです。
円背に対するリハビリ
円背改善のためのリハビリは、次の3点に集約されます。
- ストレッチ
- 筋力トレーニング
- 日常生活上の注意
ここでは、特にストレッチと筋力トレーニングについて詳しく記載します。
ストレッチ
次のような動きの制限が、背中が丸まっている多くの方に見られます。
・背中を伸ばす動き
・肩甲骨の動き
・骨盤の動き
よって、それぞれを動かしていきましょう。
背中を伸ばすストレッチ
背中を伸ばすストレッチでは、四つ這いの姿勢から、徐々にお尻を後ろへ引いていくような方法で行います。腕が耳につくくらいまで伸ばしたら、その位置で10秒ほどキープしましょう。肩の痛みがある場合には、無理をしないようにしてください。
肩甲骨ストレッチ
胸椎と胸郭は、一つのユニットとして考えることができます。その中でも、特に関連が強いのが肩甲骨であり、肩甲骨がお互いに近づけば胸椎は伸展し、お互いが離れれば胸椎は屈曲します。
そのことを、下の図で説明しています。
よって、肩甲骨同士を寄せるような運動は、円背のためのストレッチとして適しています。これは、言い換えれば、胸を張るような動きのことです。
円背姿勢が続くと、胸の前の大胸筋などは短縮傾向になるので、上の図のような形で胸を張るストレッチが有効です。胸を張るストレッチを行う際には、しっかりと肩甲骨を寄せることを意識しましょう。肩甲骨を寄せたら10秒ほどキープするようにして下さい。
骨盤の運動
胸椎と腰椎は関連が強く、円背になると腰にも影響が出ます。多いのは、骨盤の後方への傾きが強くなることです。逆に言えば、骨盤の動きも背中に影響が出やすい傾向があります。よって、ここでは骨盤を前方へ傾ける運動を行うことで、円背改善を目指します。
イスに浅く座り、お尻の後ろ半分にタオルなどを挟みます。これで、骨盤は前に倒れやすくなるので運動がしやすくなります。ここから、青色の矢印のように骨盤を意識的に前方へ回転させるように動かしましょう。ゆっくりと10回ほど行います。
腰に痛みが出れば、タオルを挟むのを止め、痛みの範囲内で行いましょう。最初は動いている感じがしなくても、継続していくことで徐々に骨盤の動きを感じることができるようになります。
筋力トレーニング
筋力トレーニングでは、固有背筋と呼ばれる背中の筋肉を鍛えていくわけですが、背筋には2つのタイプが存在することを理解しておく必要があります。
・表層に位置する筋肉
・深層に位置する筋肉
どちらも重要なのですが、姿勢に大きな影響があるのは深層に位置する、いわゆるインナーマッスルです。インナーマッスルである回旋筋・多裂筋・棘間筋といった小さな筋肉たちは、背骨同士の固定のために働くだけでなく、背骨の位置関係を把握するためのセンサーとしての役割も果たしていると考えられています。
インナーマッスルを鍛えるポイントは、あまり強い負荷を加えないということです。ゆっくり、大きく、軽めに動かすことが重要です。
ペットボトルを使う方法
イスに腰掛け、500mlのペットボトルを両手で持ちます。その際には、肘をしっかりと伸ばしておくようにしてください。また、先ほどストレッチの項目で述べたように、肩甲骨を寄せるような意識を持ちましょう。
背筋をのばしたまま、腕を90°程度まで挙げていきます。5秒ほどかけて、ゆっくりと動かしましょう。腕が真っすぐ前に伸びたあたりで停止し、今度はまたゆっくりと5秒かけて降ろしていきます。負担が強いと感じたら、ペットボトルの中身を減らしてください。
さらに、90°腕を上げた位置で、左右に体を回す運動を行いましょう。その際にも、ゆっくりと片方各5秒かけて動かしていきます。
バランスボールやテーブルを使う方法
もしご自宅にバランスボールがあれば、座った状態でバランスボールに手を置き、前方へ転がしながら背筋をトレーニングする方法があります。
その際には、バランスボールに全体重をかけるのではなく、6~7割くらいの体重をかけながら前方へ転がすことで、丁度良い負荷を背筋に加えることができます。辛ければ、体重をかけ方を調整してください。
バランスボールがなければ、ダイニングテーブルなどで代用することができます。テーブルの上に両手をのせながら、前方へ滑らせていきましょう。
まとめ
背中が丸くなってしまうと、いかにも歳をとってしまったように感じるので、みなさん避けたい気持ちが強いと思います。誰かに指摘されたり、自分自身で背中が丸くなったと気が付いた時には、年齢にもよりますが、まずは骨粗鬆症の有無などを専門医に診てもらいましょう。
その上で、可能な範囲でストレッチや筋力トレーニングを行って進行を防止していくのが重要です。
オススメ書籍