腰椎椎間板ヘルニアの基礎知識と、そのリハビリについて解説します

腰椎椎間板ヘルニアは、臨床上よく遭遇する疾患であり、リハビリ介入機会も多い傾向にあります。

しかし、運動療法の有効性は未だに確立しているとは言い難い状況です。

そのような中で、腰椎椎間板ヘルニアに対するリハビリ評価と治療を、どのように行えば良いのかを迷う理学療法士は少なくないでしょう。

ここでは、腰椎椎間板ヘルニアの基礎知識とともに、実際のリハビリ方法をご紹介させていただきます。

腰椎椎間板ヘルニアとは?

病態の概要

腰椎椎間板ヘルニアとは、椎間板の組織である髄核や線維輪が後方もしくは側方に脱出し、神経根を圧迫することで、腰部痛や下肢痛を引き起こす病態のことです。

ここで注意が必要なのは、それらの神経根の圧迫があったとしても、それだけで痛みを出すとは限らないということです。

髄核の脱出や繊維輪の損傷は、その炎症や癒着につながり、神経根は機械的刺激(Mechanical factor)と同時に化学的侵害刺激(Chemical factor)による影響を受けることで、痛みが出現することになります。

『突出』なのか『脱出』なのか?

髄核がどの程度、脊柱管内に侵入しているかは『突出』と『脱出』に分けられます。

『突出』について突出とは、髄核が線維輪や後縦靭帯を後方に押し出してはいますが、突き破ってはいない状態です。

『脱出』について脱出とは、髄核が繊維輪や後縦靭帯を突き破ってしまっている状態です。

診断基準

日本整形外科学会の『腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン策定委員会』による診断基準は以下の通りです。

  1. 腰・下肢痛を有する(主に片側,ないしは片側優位)
  2. 安静時にも症状を有する
  3. SLR テストは70°以下陽性(ただし高齢者では絶対条件ではない)
  4. MRI など画像所見で椎間板の突出がみられ,脊柱管狭窄所見を合併していない
  5. 症状と画像所見とが一致する

腰椎椎間板の症状について

好発する年齢や発生レベル

腰椎椎間板ヘルニアは、罹患しやすい年代が存在します。

椎間板ヘルニアは、比較的若い方に多い傾向があります。20代や30〜40代によく起きます。しかし、50代以上であったとしても、運動量が多い方や腰を酷使するような動作を行う方は症状が現れることは十分にあります。

腰椎椎間板ヘルニアが起きやすい部位は、第4-5腰椎間の椎間板が最も多く、全体の約6割ほどです。次いで、第5腰椎-第1仙椎間、第3-4腰椎間の順で起きやすい傾向にあります。

高さのレベルについて

それでは次に、椎間板ヘルニアの高さのレベルによって、どの神経根に症状が現れるのかを見ていきます。

例えば、第4腰椎と第5腰椎の間にある椎間板でヘルニアが起きた場合には、第5腰椎神経根の圧迫を受けることになります。

これは、腰椎における神経根が、各椎間に存在する椎間板のやや近位にて分岐した後に外下方に走行しているからです。

文章だとよく分からないので、下の図をご覧ください。

これと同様に、第3-第4腰椎の間での椎間板ヘルニアは、第4腰椎神経根を、第5腰椎-仙椎の間では第1仙椎神経根が障害されることになります。

神経症状とテスト

腰椎椎間板ヘルニアは、その圧迫を受けた髄節レベルに応じた症状が出現します。

それぞれの神経症状とテストは、次の表を参照して下さい。

知覚障害部位筋力低下各種テスト
L1/2
L2/3
大腿前面腸腰筋
大腿四頭筋
内転筋
FNSテスト+
L3/4大腿前外側~
下腿内側部
大腿四頭筋FNSテスト+
L4/5下腿前外側~
足背部
前脛骨筋
長母趾伸筋
長趾伸筋
SLRテスト+
L5/S下腿外側~
足部外側部
腓骨筋
長母趾屈筋
長趾屈筋
SLRテスト+
SLRテスト=Straight leg raising(下肢伸展挙上)test
FNSテスト=femoral nerve strech(大腿神経伸展)test

治療について

保存療法か手術療法か

腰椎椎間板ヘルニアに対して手術が必要になるケースは少なく、ほとんどの患者さんは3ヶ月間程度で症状が軽快するため、基本的には保存療法が第一選択となります。

この理由としては、脱出した髄核は、時間とともに体に吸収されることで自然縮小が見込めるからです。

手術が必要になるケースとしては、保存療法が無効な場合や、馬尾症候群が見られるような場合です。馬尾症候群とは、膀胱直腸障害や下肢感覚障害、運動障害などを引き起こすものであり、馬尾障害が出現した腰椎椎間板ヘルニアは予後が良くないと言われています。

病期による保存療法

急性期においては、薬物療法(鎮痛薬やNSAIDsなど)を中心に、激しい疼痛には硬膜外ブロックや神経根ブロックが行われます。一般的に急性期では積極的な運動を避け、除痛を目的とした安静臥床を行います。

急性期が過ぎた後には、理学療法士による運動療法や、日常生活上の指導が行われます。場合によっては、一時的にコルセットの着用などを行うこともあります。

運動療法のエビデンス

現段階において、腰椎椎間板ヘルニアに対する運動療法のエビデンスは決して高くありません。

日本整形外科学会、日本脊椎脊髄病学会監修の【腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン 改訂第2版】には運動療法の記載はありません。

また、日本理学療法士協会における【理学療法診療ガイドライン 第1版】においては、椎間板ヘルニアに対する運動療法はグレードC(行うように、もしくは行わないように勧められる科学的根拠がない)とされています。

実際の運動療法について

運動療法の基本戦略

エビデンスは確率していないとしても、腰椎椎間板ヘルニアに対する運動療法は、様々な方法が試みられています。

それらの方法には、一定の共通点が見られます。それは、『腰部の支持性の強化』や『腰部に影響を与える患部外へのアプローチ』が含まれているということです。
要するに、いかに【腰部をニュートラルなポジションに保つ】かということに焦点を当てた戦略で、リハビリは行われる傾向にあります。

そのためのリハビリ方法をピックアップしてみました。

  1. 体幹深部筋トレーニング
  2. 前胸部のタイトネス改善
  3. 股関節周囲のタイトネス改善

1:体幹深部筋トレーニング

体幹筋のうち、腹筋群最深層に存在する腹横筋は、腰背筋膜を介して腰椎横突起・棘突起に付着しています。

その収縮力を高めることで、腰背筋膜の緊張を高め、コルセットのような効果を得ることが可能であると考えられます。

まずは、ドローインにおいて、腹横筋の収縮を促していきましょう。腰背部に手掌を入れることで、副次的作用としての腰椎の後弯を防ぐことができます。

また、背臥位にて、生理的な腰椎前弯を保持した姿勢で行う、上下肢の挙上運動も体幹深部筋のトレーニングに有効です。

まずは、難易度が低い上肢の挙上を見てみましょう。

次に、難易度の高い両下肢挙上動作を見てみましょう。

どちらにも言えることですが、生理的な腰椎前弯を維持できなければ、運動を行うべきではありません。必ず骨盤-腰椎アライメントを確認しながら、椎間板への過負荷を避けて行う必要があります。

2:前胸部のタイトネス改善

胸椎部の過後弯による胸椎の可動性低下は、腰部への負担増につながる可能性があります。

椎間板への負担が少ない背臥位-下肢伸展位にて、大胸筋を中心とする前胸部ストレッチを行っていきます。

そのためには、ストレッチポールなどを使用するのが最適でしょう。

3:股関節周囲のタイトネス改善

股関節周囲筋のタイトネスによって、腰部への負担が増強しているケースは少なくありません。

股関節周囲のストレッチを行う際に重要なのは、やはり腰椎の生理的前弯を維持した状態で行うということです。そうすることで、椎間板への過剰な圧迫ストレスを回避することができます。

特に、下の図のようなハムストリングスのストレッチは重要です。ハムストリングスのタイトネスは、骨盤後傾-腰椎後弯をもたらし、椎間板への圧迫ストレス増強へつながる恐れがあります。

まとめ

腰椎椎間板ヘルニアにおける運動療法のエビデンスは、未だ確立されておりませんが、実際にはリハビリ処方が多い疾患でもあります。

「腰椎をニュートラルに保ち、椎間板内圧を上昇させずに生活するにはどうすれば良いのか」ということが、運動療法の目的となります。

そのための戦略的アプローチ、ならびに日常生活指導が重要です。