近年、体幹の安定性にとってインナーマッスルの重要性が注目されています。
体幹におけるインナーマッスルは、ローカル筋とも呼ばれ、腹横筋や大腰筋とともに多裂筋もそれに含まれます。
多裂筋は腰部において非常に発達しており、運動パフォーマンスや腰痛に深く関与しています。
多裂筋は、頸椎~仙骨に至るまでの筋肉なのですが、ここでは特に機能的に重要である腰部の多裂筋の構造についてご紹介させていただきます。
目次
腰部多裂筋の概要
起始・停止
- 仙骨
- 上後腸骨棘
- 乳様突起、椎間関節の関節包
- 棘突起の基部
作用
腰部多裂筋の作用は、腰部における次の運動です。
- 伸展
- 側屈
- 回旋
多裂筋は、両側性に作用すれば伸展し、片側性に作用すれば側屈・回旋が起きると言われています。
神経支配
- 脊髄神経後枝内側枝
“多裂”の意味
多裂筋(multifidus muscle)は、「multifidus=多数の」という意味があるように、“多裂”とはいくつかの筋繊維の集合体であるということを表しています。
多裂筋の2つの繊維群
多裂筋には、大きく分けて次の2つの繊維群が存在しています。
- 『棘突起-腸骨・仙骨』を結ぶ繊維
- 『棘突起-椎間関節・乳様突起』を結ぶ繊維
これら2つは、次のようにも呼ぶことができるでしょう。
『棘突起-腸骨・仙骨』を結ぶ繊維=Long fiber
『棘突起-椎間関節・乳様突起』を結ぶ繊維=Short fiber
1.Long fiber(ロングファイバー)について
この繊維群は仙腸靭帯に付着することから、仙腸関節の安定化に作用します。
また、腰部の側屈・伸展作用に優れていると考えられます。このことは、Long fiberのモーメントアームを見ると良く分かります。
まずは下の図をご覧ください。
上後腸骨棘からの繊維はL1棘突起基部へ向かって走行し、仙腸靭帯や仙骨からの繊維はL2~L5棘突起基部に向かって走行します。
このことから、特に上位腰椎の筋繊維は、より側屈に作用することが分かります。
次に伸展作用を見てみます。
Long fiberの走行は、椎間関節よりも後方を通るため、腰部の伸展に働くことが分かります。
その際には、骨盤傾斜や仙骨の傾きに、若干多裂筋の伸展作用が左右されることが予想できます。
2.Short fiber(ショートファイバー)について
この繊維群は、特に腰部のスタビリティに関与すると考えられます。
Short fiberの走行を見てみましょう。
乳様突起と椎間関節(厳密には、椎間関節の関節包)から起きる繊維は、2つ上の棘突起をそれぞれつないでいます。
よってShort fiberは椎間関節の適合性に関与すると言われています。
この繊維の走行を矢状面から見てみましょう。
Short fiberを矢状面からみると、Long fiberとは矢印の方向が違うことが分かります。
矢状面から見た多裂筋の走行
以上のことから、多裂筋は棘突起に向かって前後から筋繊維が伸びているということが分かります。
下の図において、青色がLong fiberの走行であり、赤色がShort fiberの走行です。
このように、多裂筋は前後から棘突起を制動していることが分かります。
ローカル筋としての多裂筋の特徴
ローカル筋とは?
体幹筋を機能的に大きく分けると、体幹浅層に存在するグローバル筋と、体幹深層に存在するローカル筋に分けられます。
腰背部においては、次のように分けられます。
- グローバル筋:脊柱起立筋群(erector spinae muscle)
- ローカル筋:横突棘筋群(transversospinalis muscle)
ここでは深くは触れませんが、脊柱起立筋群は棘筋・最長筋・腸肋筋からなる筋群です。
横突棘筋群とは?
横突棘筋群は、脊柱起立筋の深層に位置しています。
横突棘筋群は、さらに次の3層に分けられます。
- 浅層:半棘筋
- 中層:多裂筋
- 深層:回旋筋
多裂筋の重要性
この中でも、多裂筋は腰部において非常に発達しています。
例えば、第3腰椎レベルにおいては、多裂筋と脊柱起立筋の構成比率は約1:1の関係にあります。
下の図をご覧ください。
これよりさらに下位腰椎レベルにおいては、さらに多裂筋の占める割合は増加し、腰背部の筋全体のボリュームの8割を占めるまでとなります。
ローカル筋としての役割
ローカル筋としての多裂筋の役割は、分節間の安定です。
ローカル筋である多裂筋と、グローバル筋である脊柱起立筋の協調的な動きがあって、初めて腰背部の安定性は機能します。
下の模式図をご覧ください。
もし、多裂筋が機能していなければ、腰部の分節間の固定力は低下します。
それを下の模式図で表しています。
腰部の安定には、このように多裂筋の作用が重要です。
多裂筋と腹横筋の協同作用
腹腔内圧の上昇について考える
ここまで見てきたように、多裂筋は腰部の安定性に関与します。
しかし、腰部のスタビリティを考える際には、腹腔内圧上昇による安定化機能も必要です。
その際には多裂筋の単独収縮だけでは不十分です。
多裂筋と腹横筋の関係
多裂筋と腹横筋は、胸腰筋膜を介して連結があります。
下の図で、腹横筋と多裂筋の関係をご確認下さい。
胸腰筋膜を介して、多裂筋と腹横筋が協同的に働くことで、効率的に腹腔内圧の上昇につなげていくことができます。
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まとめ
腰部における多裂筋は、体幹の安定性にとっては不可欠な要素です。
その解剖学的な構造を理解することで、効果的なリハビリへとつなげていくことが可能になると思います。