膝のリハビリにおける、パテラセッティングの基本と応用。

膝疾患における術後リハビリや保存療法に広く適応となる『パテラセッティング(patella setting)』ですが、単なる筋力訓練だけではなく、様々な使い道があります。

ここでは、普段理学療法士が当たり前にやっているパテラセッティングを復習するとともに、その臨床応用について考えていきます。

パテラセッティングとは?

パテラセッティングとは、基本的には膝を伸展位~軽度屈曲位(膝窩部にタオルなどを入れる)にして、大腿四頭筋を収縮させることで膝蓋骨を大腿骨へ押し付けるような運動を指します。

大腿四頭筋を収縮させるために、クアドセッティング(Quad setting)とも呼ぶことがありますが、同じ運動のことです。

パテラセッティングのメリットは多くありますが、その代表的なものとしては以下の通りです。

  1. 膝の屈伸関節運動をほとんど伴わないために、関節運動に伴う痛みやリスクがある患者さんにも適応としやすい。
  2. 内側広筋(斜走繊維)のトレーニングに効果的。
  3. 単純な動作なので、患者さんへの指導が容易。
  4. 運動の条件を変えることで、様々な症状への応用ができる。

それでは一つずつ見ていきましょう。

1:関節運動に伴う痛みやリスクがあっても適応としやすい。

膝関節疾患の中には、変形性膝関節症や半月板損傷、各種靭帯損傷といった関節不安定性を生じるものが多くあります。関節が不安定であると、膝屈伸運動(特に荷重位にて)に伴い、炎症が生じたりメカニカルストレスにより疼痛が生じることがあります。このような場合においては、関節運動を伴わないパテラセッティングは、比較的安全に行うことができます。また、そういった理由から、リスクの高い膝の各手術後においても、早期に開始できる運動療法の一つです。

ただし、無条件でリスクがないかというと、そうでもありません。例えば、前十字靭帯損傷後の再建術をしたばかりの患者さんに対して、膝窩部ではなく脛骨寄りにタオルを置いて指導した場合はどうでしょうか。そうすることで、脛骨の前方移動を助長し、再建した靭帯へストレスを加える可能性もあります。盲目的に『パテラセッティングは急性期においても安全だ』と思い込むのは危険なので、あくまでも症状に合わせて実施すべきです。

2:内側広筋(斜走繊維)のトレーニングに効果的。

大腿四頭筋による牽引力は、Q角の存在により膝蓋骨をまっすぐ上方向ではなく、やや外側上方向へ引っ張ります。それに対して、内側広筋斜走繊維(VMO)は、そのベクトルに拮抗することに適しています。内側広筋斜走繊維が働くことで、大腿四頭筋全体としての膝蓋骨外側偏位を相殺することが可能となるわけです。

逆に、内側広筋の筋委縮などが起きれば、膝蓋骨は外側偏位を起こし、膝蓋大腿関節の疼痛発生原因となると言われています。また、内側広筋斜走繊維の機能低下は、Extention lagの原因にもなると報告されています。

膝最終伸展位にて行うパテラセッティングは、この重要な内側広筋斜走繊維のトレーニングに適しています。Calliet著「膝の痛みと機能障害」では以下のように述べられています。

膝は内側広筋の斜走線維によってのみの伸展が不可能である。膝の最後の15°の伸展にはそれまでの伸展に要した力の60%増しの力が必要とされる。そこで、斜走線維が膝蓋骨を大腿骨溝に(中心に)位置させるように収縮すれば13%より少ない力で可能となる。

簡単に言えば、膝の最終伸展には、内側広筋斜走線維の働きが必要だということです。言い方を変えれば、膝の最終伸展での収縮訓練は内側広筋斜走繊維のトレーニングに適しているということです。

このことに対しては、現在賛否両論ありますが、パテラセッティングによる最終伸展位での大腿四頭筋訓練の意義としては注目すべきものです。

 3:単純な動作なので、患者さんへの指導が容易。

セルフエクササイズを患者さん自身で行っていただくことは、なかなか簡単なことではありません。特に相手が高齢者であったり、お子さんであったりする場合には、複雑な運動療法を指導しても実践困難です。

それに比べて、パテラセッティングは比較的単純な動作なので、受け入れやすい傾向があるようです。それだけで問題が解決するケースはほとんどないでしょうが、セルフケアを習慣化するためにも、この運動を指導する意義は十分あるでしょう。

4:運動の条件を変えることで、様々な症状への応用ができる。

解剖学・運動学的に考えながら条件を変えることで、パテラセッティングは様々な応用ができます。ここでは、5つの例を出していきます。

伏臥位

このように伏臥位でパテラセッティングを行うことで、大腿四頭筋全体により強い負荷を加えることができます。OKCにおける等尺性運動としては比較的筋力トレーニングの効果が出やすいです。

立位

また、下の写真のようにCKCにおいて、壁との間にボールを入れて行うセッティング方法もあります。何らかの理由で荷重位で大腿四頭筋の収縮が入りにくいときなどに用いると効果があるかもしれません。

股関節肢位を変える

股関節のアライメントを調整してみても、変化がでます。下の写真のように、例えば股関節外転・外旋位にてパテラセッティングを行うことで、より一層内側広筋(斜走繊維)に負荷を加えやすくすることもできるでしょう。逆に、股関節内転内旋位では、外側広筋が優位に働きます。

長座位

さらに、下の写真のように、長座位にて骨盤前傾を行いつつパテラセッティングを行うことで、大腿直筋の影響を減らすことができます。

この写真では、本来もう少し骨盤前傾させた方がいいでしょうが・・。

この肢位で行うことで、大腿直筋が抑制され、中間広筋が働きやすくなります。中間広筋からは次のイラストのように、『膝関節筋』が起始しており、膝蓋上包へ停止しています。

引用:『グレイ解剖学 原著第2版』

人工膝関節置換術(TKA)等の術後などでは、この膝蓋上包の癒着予防は理学療法士が必ず行うべき項目です。パテラセッティングだけで癒着予防が達成できるものではありませんが、このような肢位においてパテラセッティングを行うことで、膝関節筋を収縮させ(中間広筋を介して)膝蓋上包を引き上げることで、癒着予防のための一端を担うことができるでしょう。

牽引を加える

下の写真のように、パテラセッティングを行うスタートポジションとして膝蓋骨を遠位へ徒手的に牽引を加える方法があります。

例えば、先ほどのように内側広筋を優位に働かせたいと思うときには、膝蓋骨を外側遠位へ牽引させた状態を作ります。パテラセッティングを行う瞬間に手を離さないといけないので、患者さんとのタイミングを図るのは最初は難しいかもしれませんが、何回か実施するうちにお互いの呼吸が合うようになってきます。

この状態からパテラセッティングを行うことにより、内側広筋を優位に働かせることが可能です。内側広筋斜走繊維であれば、筋繊維角度は大腿骨長軸より約40°程度内上方へ向かうので、その対角線上遠位へ牽引をすれば良いということになります。

外側広筋であれば、その反対に、膝蓋骨を内側下方へ牽引した位置をスタートポジションとして、そこからパテラセッティングを行います。

さらに、膝蓋骨下方に存在する膝蓋下脂肪体や半月板の可動性改善を狙いたい場合には、脛骨粗面の方向へまっすぐ牽引をかけると良いでしょう。下の写真のようにまっすぐ牽引をかけ、そこからパテラセッティングを行うことで、膝蓋靭帯が緩んだ位置からパンと張ってくるので、それに引き上げられるように膝蓋下脂肪体や半月板は動いてきます。前方でのそのような軟部組織のインピンジメントがある場合などに有効な手法です。

パテラセッティングを行うその前に

パテラセッティングは、膝蓋骨の可動性が確保されていることが前提となります、膝蓋骨周囲には様々な軟部組織が付着しており、それぞれが膝蓋骨の可動制限の要因となります。

【膝蓋骨】に付着する組織の基礎知識

そのため、パテラセッティングの準備段階として、膝蓋骨のモビリゼーションを行うことが効果的です。下の写真は、長軸上の動きを改善させる様子です。

膝屈曲角度を大きくしてしまうと、膝蓋骨は大腿骨顆間溝にはまり込むので可動性が悪くなりますが、屈曲20°~30°までなら膝蓋骨は本来比較的自由に動く肢位と言えますので、そのポジションで行う必要があります。

下の図は、膝蓋骨の左右の可動性を改善させる様子です。

さらに、下の写真のように、膝蓋骨を傾ける動作(tilting)も重要です。このモビリゼーションによって、膝蓋支帯や膝蓋大腿靭帯の柔軟性が改善する可能性があります。

まとめ

パテラセッティングも、肢位を変えたり目的を変えたりすることで、様々な工夫ができます。みなさんも、この運動のメリットを最大に活かしながら、効果的な運動療法を考えてみて下さい。