梨状筋(りじょうきん)は、股関節疾患や腰部疾患においても関連が深い筋肉です。
その代表的な病態は、坐骨神経を絡めた梨状筋症候群にあります。
しかしそのような病態を考える際には、梨状筋の解剖学的な特徴を理解することが必要です。
ここでは、梨状筋の基本的な特徴についてご紹介していきます。
目次
解剖学的な基礎情報
起始・停止
起始:仙骨の前面(各前仙骨孔の間の部分)
停止:大転子上縁の内側面
走行
梨状筋は、深層外旋六筋(梨状筋・外閉鎖筋・内閉鎖筋・上双子筋・下双子筋・大腿方形筋)の中でも、最も上方に存在しています。
梨状筋は仙骨の前面から起こり、大坐骨孔を外側・下方へ向かって走行しています。
神経支配
仙骨神経叢(S1・S2))
梨状筋により分けられる孔
大坐骨孔を梨状筋が通過することで、次の2つの孔(トンネル)ができます。
- 梨状筋上孔
- 梨状筋下孔
梨状筋上孔には、次のものが通過します。
- 上殿神経
- 上殿動脈
- 上殿静脈
梨状筋下孔には、主に次のものが通過します。
- 坐骨神経
- 下殿神経
- 下殿動脈
- 下殿静脈
- 陰部神経
これら神経や血管が、梨状筋の上下のトンネルを通過するということは、梨状筋の過緊張によって影響を受ける可能性があるということを示しています。
特に、坐骨神経は梨状筋による絞扼(締め付けられること)を受けやすい走行をしているため注意が必要です。
梨状筋の作用
主な作用
股関節の外旋
下の図は股関節の水平断(輪切り)であり、股関節を上から見ているものです。
梨状筋は、股関節の回転軸の後方に位置しているため、その間にモーメントアームが生まれます。
それによって、股関節を外旋させる力が生まれます。
股関節の外転(補助筋)
梨状筋は、股関節を外転させる作用もありますが、下の図で分かる通りモーメントアームが短く、外転作用は大きくありません。
その代わり、大腿骨頭を臼蓋に引き付ける力は強く、股関節の安定性に大きく貢献しています。
このことは、変形性股関節症などにより股関節の不安定性が増大した際に、梨状筋に過負荷が加わりやすいことを意味しています。
よって、臨床においては股関節疾患で梨状筋の筋攣縮(スパズム)を認めるケースは多くあります。
梨状筋の触診
梨状筋の触診方法を2種類ご紹介します。
腹臥位
まず、腹臥位で股関節を内転させます。
股関節内転位では、梨状筋は起始停止が離れるために伸長されます。
筋肉が効率的に収縮するには、ある程度伸長位である必要があるので、そのポジションからスタートします。
膝関節90°屈曲させ、股関節を自動運動として外旋させます。その際に、大転子上端と仙骨を結んだ線上で梨状筋の収縮を触れることができます。
仙骨は上後腸骨棘の下方に位置していますので、上後腸骨棘をランドマークに探すと分かりやすいです。もしくは尾骨をランドマークにして、そこから順番に上方へ触れていっても良いかと思われます。
側臥位
側臥位で梨状筋を触診する際にも、やはり上後腸骨棘をランドマークにします。
側臥位の状態で、股関節を軽度屈曲位にした状態からスタートします。
そこから下方へ触れていくと、仙腸関節が存在します。仙腸関節を乗り越えた先にあるのが大坐骨孔です。
そして、大坐骨孔の中心部にて梨状筋を触れることができます。
大坐骨孔は腹臥位でも触ることができますが、側臥位では仙骨と腸骨に高低差が生まれるため、より明瞭に大坐骨孔の窪みを触ることが可能です。
股関節屈曲位での逆作用
前述したように、梨状筋は股関節を外旋させる作用があります。
しかし、股関節屈曲位においては、梨状筋は外旋作用から内旋作用へ切り替わります。
下の図をご覧ください。
股関節屈曲0°では、梨状筋は大腿骨頭の後方を通るため、股関節の外旋として作用します。
しかし、股関節90°では、梨状筋の走行は大腿骨頭の前方を通るために、股関節の内旋として作用することになります。
骨盤前傾での外転作用増加
梨状筋は骨盤が前傾するに従い、走行が変化します。
下の図をご覧下さい。
梨状筋は骨盤前傾に伴い、走行が垂直に近づきます。
このことで、中殿筋や小殿筋を補助するように外転作用が強まることになります。
中殿筋の筋力低下などに伴い、股関節の支持性が低下しているような患者さんでは、このように骨盤を前傾させていることがよく見られます。
しかし、梨状筋はその筋断面積の大きさで分かるように、体重を支持するのに適してはいません。
よって、このような骨盤前傾アライメントを呈している患者さんの多くは、やはり梨状筋の筋攣縮を伴っています。
骨盤前傾には、大腿骨頭の被覆率(骨頭が臼蓋に覆われている比率)増加という変化もあるので、臼蓋形成不全を背景とする変形性股関節症においては、特にこのような姿勢が見られます。
梨状筋のストレッチ
梨状筋のストレッチでは、股関節屈曲+外旋の組み合わせが効果的です。いわゆる、あぐら座位のことです。
そこから、股関節を内転方向へストレッチしていきます。
この一般的なストレッチ方法は、確かに立位よりも梨状筋は伸長されますが、実際にどの程度ストレッチ効果があるのかは不明な部分もあるようです。
あぐら座位が解剖学的立位時の筋の長さと比較して21%梨状筋を長くすることが示されているにもかかわらず、このストレッチ手技によって梨状筋がどの程度伸長されているかは不明である。
引用:筋骨格系のキネシオロジー 原著第2版
梨状筋症候群について
梨状筋症候群の評価と実際のリハビリについてはこちらをどうぞ。


まとめ
股関節疾患や腰部疾患に付随して起きる梨状筋のトラブルは、稀ではありません。
そのような症状に対応するためにも、梨状筋の基本的な構造や特徴を理解することは非常に重要なことです。