膝窩筋(Popliteus muscle)は、その名の通り膝窩(膝の裏)部に存在する筋肉ですが、その独特な形状などから、膝の機能に関して重要な役割を持っています。
リハビリにおいては、膝の伸展制限の際によくこの筋肉の名前が挙げられますが、それだけではありません。
ここでは、膝窩筋の基本的な解剖学的な構造から、その役割や触診方法などについてご紹介していきます。
目次
膝窩筋の解剖学
膝窩筋の上方1/3は腱から成り、下方2/3は筋質から成っていると言われています。
起始・停止
大腿骨の外側顆
※1(弓状膝窩靭帯・関節包)
※1)膝窩筋は、大腿骨の外側顆から起始するいうことでは、どの成書に関しても一致しています。
しかしそれに加えて、弓状膝窩靭帯や関節包からも起始するとしているものがあり、見解の相違も見られます。
神経支配
脛骨神経(L4~S1)
膝窩筋の作用
膝の屈曲・内旋作用
膝窩筋の作用としては、主に膝関節の屈曲と下腿の内旋です。
下腿の内旋に関しては、膝の屈曲位にて作用します(膝伸展位では膝がロックされ、回旋可動性は制限されるため)。
膝窩筋は、唯一の単関節筋としての下腿内旋作用を持っています。ニ関節筋の下腿内旋作用を持つものとしては、内側ハムストリングス(主に半腱様筋)や薄筋が存在しています。
膝の伸展作用
しかし、カパンジー機能解剖学(原著第6版)に記載があるように、膝窩筋には膝関節伸展作用があるとしているものもあります。
膝の安定化作用
それに加えて、膝窩筋は膝の安定化に働きます。
膝窩筋からは、膝窩腓骨靭帯(Popliteofibular ligament=PFL)が起始しており、それが腓骨頭へ付着します。
下の図をご覧下さい。
膝窩筋が緊張することで、膝窩腓骨靭帯も緊張することになります。
それにより、膝の特に外側での安定性が向上します。逆に、この機能が低下すれば、膝の後外側不安定性(posterolateral rotatory instability=PLRI)を引き起こす可能性があります。
膝窩筋の走行
遠位から近位への走行
膝窩筋の走行の特徴は次の通りです。
- 弓状膝窩靭帯のアーチをくぐる
- 外側半月と連結する
- 外側側副靭帯と外側半月の間を通過する
- 関節包内へ貫通する
膝窩筋は、弓状膝窩靭帯の狭いアーチの下をくぐって走行していることから、この周囲では滑走制限が起きやすい傾向があります。
その影響からか、この部位は圧痛所見が見られやすい場所の一つです。
膝窩筋の走行のバリエーション
上記に挙げたものは一般的な解剖学書などに見られるものですが、その他にも膝窩筋は様々な走行をする場合があります。
いわゆる人による個体差が存在します。
例えば、外側反半月板は後方1/3に膝窩筋腱が停止すると言われています。
しかしその形態には様々なものがあり、膝窩筋からの繊維がそのまま外側半月板に連結するものや、後方関節包を介して連結するものが報告されています。
膝窩筋の3つの機能
膝窩筋には、次のような重要な機能があります。
- 外側半月板の挟み込み防止
- 膝のロック解除
- 膝の動的安定化
1.外側半月板の挟み込み防止
前述したように、膝窩筋は外側半月板との連結があるために、膝の屈曲時において膝窩筋の収縮は外側半月板を後方へ牽引する機能があります。
それにより、大腿骨顆部と脛骨顆部における外側半月板の挟み込みを防止することができると考えられます。
逆に言うと、膝窩筋の機能不全あれば、外側半月板は膝屈曲するにしたがって挟み込まれ、いわゆるインピンジメントによる痛みを生じることがあります。
2.膝のロック解除
人間が立位を取る際には、膝関節が【ロック】されることで、立位を保持するための筋活動を少なくしています。
これは、膝が最終伸展位となることで、関節面が広くなり安定するからです。
このロック機能に必要な要素として、伸展時に脛骨が外旋するということがあります。これはscrew home movementとも呼ばれ、下腿の外旋に伴い、内側・外側側副靭帯などが緊張することで安定性を増します。
立位時から歩き出す際の転換点などでは、膝のロック機能を解除する必要があります。
その際に膝窩筋が働くことで下腿を内旋されて膝のロックが解除され、スムーズに動き出すことが可能になります。
3.膝の動的安定化
膝窩筋は、膝を動かすためのモーメントアームが短く、単関節筋であることからもインナーマッスルとして存在していることが分かります。
インナーマッスルの特徴としては、関節の安定化のために働くといった共通の機能が存在します。
膝窩筋は、動作の中で関節安定性を向上させるために働いています。
特に、起立動作や階段昇降(昇段動作)では、膝窩筋は早期に収縮して関節を安定化させるために働いていると言われています。
膝窩筋の触診方法
ヒラメ筋線を触る
膝窩筋の触診では、まずヒラメ筋線を触ります。
ヒラメ筋線は、ヒラメ筋の起始にもなっていますので、ヒラメ筋の上縁を触れることで触診ができます。
下の図のように、膝窩部に指を置いて、圧迫しながら遠位にずらしていくと、ヒラメ筋の筋腹で止まります。
これだけでも分かるのですが、指が遠位に行き過ぎてしまったように感じる場合には、次のような方法を取ります。
- 指をここに置いたまま、膝屈曲位にする
- 足関節の底屈運動を繰り返す
- ヒラメ筋の筋収縮を感じながら、近位に戻る
- 筋収縮が感じられなくなった場所をヒラメ筋線とします
筋腹の幅を推測する
ヒラメ筋線が分かれば、そこから膝窩筋は下の赤色で示した部分のように存在しているはずです。
自動収縮をさせる
そして、ヒラメ筋線よりも近位部に指で触れた状態で、膝関節の屈曲・内旋動作を行わせます。
自動運動では運動方向が非常に分かりにくいので、自動介助運動として動きを誘導しながら膝窩筋の収縮を促します。
すると、膝窩部の深部から膝窩筋が盛り上がるように収縮する様子が分かります。
階層を意識する
しかし、膝窩筋の表層には、足底筋や腓腹筋が存在していますので、それらを介して触っていることに留意する必要があります。
膝窩筋のリハビリ
リラクセーション
膝窩筋は膝の安定化に働くことから、不安定性の強い膝(変形性膝関節症など)や、炎症の影響を受けた膝においては、膝窩筋の攣縮(筋スパズム)が起きることが多々あります。
そのような時には、筋のポンプ作用を利用したリラクセーションが有効的です。
方法としては、先ほどの触診方法と同じように、膝関節屈曲位から屈曲・内旋運動を軽めに反復させるか、軽めの等尺性収縮を促すのが良いでしょう。
ストレッチ
膝窩筋のストレッチとして、あくまで一例ですが、停止部に対するⅠb抑制を利用したスタティックストレッチを行います。
停止部である脛骨後面に指を置き、膝窩筋を把持したまま起始部に向かって30秒ほど押さえます。
いわゆるダイレクトストレッチのような方法でもあるのですが、このような方法を行うことで、膝窩筋腱への持続伸長が可能になりますので、Ⅰb抑制の効果が得られるのではないかと考えています。
まとめ
膝窩筋は、膝関節の中でも重要な筋肉の一つです。
その重要性は、膝関節唯一の単関節筋としての下腿内旋作用があることや、半月板の牽引効果があることをみても明らかです。
しかし、同時にまだ研究が必要な分野であるとも感じます。
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