『Q角』
よく聞く言葉ですが、どうやって計測するか疑問な方もいらっしゃるのではないでしょうか。
ここでは、Q角の基礎知識や、リハビリへの応用についてご紹介させていただきます。
理学療法士を始めとするセラピストにとっては、Q角を理解することは膝関節の理解につながります。
目次
Q角とは?
Q角を構成するもの
教科書的に言えば、Q角は次の2つの線が交わる角度です。
- 上前腸骨棘と膝蓋骨の中央を結んだ線
- 膝蓋骨の中央と脛骨粗面上縁を結んだ線
Q角の正常値
Q角は標準化された測定プロトコール(方法)があるわけではないので、正常値は文献によってばらつきがあります。
概ね10°~15°が正常値と言って良いでしょうが、男女比や肢位などで変化します。
男女比
女性の方が、男性よりもQ角は大きい傾向にあります。
これは、女性の骨盤の形状が、男性の骨盤に比べて横長になっているためです。女性は妊娠や出産に適応しなければいけないために、このように骨盤が広くて浅い形をしていると言われています。
骨盤が横長になれば、上前腸骨棘も外側に移動しますので、Q角は増大するというわけです。
FTAとの違い
FTA(femoro-tibial angle)とは、大腿骨脛骨角のことであり、その構成する線は次の通りです。
- 大腿骨中央を通る線
- 脛骨中央を通る線
FTAの正常角度は、170~175°であり、やや膝関節は外反していることになります。このことを、生理的外反と呼びます。
FTAとQ角は、混同しないように注意が必要です。
Q角がなぜ重要か?
上前腸骨棘~膝蓋骨への線を使う理由
Q角の『Q』は『Quadliceps=大腿四頭筋』のことです。
特にここでは、大腿四頭筋の4つの筋肉(大腿直筋・中間広筋・外側広筋・内側広筋)が合成された力として考えて下さい。
大腿四頭筋は、4つの筋肉が全て膝蓋骨を介して脛骨粗面に付着します。
よってQ角の重要な要素としては、大腿四頭筋が膝蓋骨を引っ張る力の合成線がどこを向かっているのかということです。
上前腸骨棘から膝蓋骨へ向かう線は、この大腿四頭筋全体としてのベクトルに近いので、この線を用いているわけです。
膝蓋骨には、正常でも外側に力が働く
膝関節は、FTAにみられるように大腿骨と脛骨が一直線上ではありません。
このように膝関節は生理的に外反しているために、大腿四頭筋には、膝蓋骨を外側方向へ引っ張る力が生まれます。
上からは大腿四頭筋の牽引力が加わり、下からは膝蓋靭帯による牽引力が加わることで、そのベクトルが合成されるからです。
外側への力に対抗する構造
膝蓋大腿関節は、このような膝蓋骨にかかる外側方向への牽引力に対抗するための構造があります。
それは、顆間溝で分けられた内側・外側の関節面は、外側でより広く・急斜面になっていることです。
下の図は、膝関節を上方から見たものです。
この急斜面において、過度の膝蓋骨外側への変位をブロックしているような構造をとっています。
Q角は膝関節アライメントの評価ツールとなる
Q角は、この膝蓋骨が外側へ引っ張られる力を評価するための、最も一般的で簡単な臨床指標です。
よって、Q角が異常であることは、膝蓋大腿関節(膝蓋骨と大腿骨の関節)のアライメントが異常であったり、脛骨大腿関節のアライメントが異常であることにつながります。
しかし、Q角は評価の補助的な要素で用いるのが主流であり、Q角異常=膝関節の病態となるわけではありません。
O脚による影響
Q角はどのように変化するか
O脚=内反膝では、一般的にはQ角は減少します。
O脚では、FTAは増大し、大腿骨と脛骨は一直線に近づきます。よって、大腿四頭筋の牽引力と膝蓋靭帯による牽引力も一直線上になります。
しかし、Q角が減少するのが良いことなのかと聞かれれば、そう簡単な問題ではありません。
外側支持組織の伸長による変化
変形性膝関節症などでQ角が減少した場合、外側広筋や外側膝蓋支帯といった膝蓋骨の外側支持組織は、相対的に伸長位になります。
さらに、歩行時のlateral thrust(膝の外側動揺)などにより、外側の組織は常に引き延ばされる力が加わります。
このように引き延ばされた外側支持組織は、痛みの元になり得ます。
Q角の増大
最大のリスクは膝蓋骨脱臼
Q角を増大させる最も大きな因子は、膝の外反です。
過度な外反膝では、膝蓋骨の外側方向への牽引力が増大した結果、膝蓋骨脱臼につながることもあります。
膝蓋骨脱臼の原因については、膝の外反だけでなく、脛骨粗面の位置や膝蓋骨関節面の外側傾斜角度が生まれつき浅かったりといった要因が他にもあります。
膝蓋骨脱臼は、以下に示す膝蓋大腿関節症にも影響を与えます。
膝蓋大腿関節症
膝蓋骨が脱臼方向へ変位した結果、膝蓋大腿関節へのメカニカルストレスも増大します。
とりわけ、外側方向へ膝蓋骨が動きやすいので、外側面においてのストレスが大きくなります。その結果、膝蓋骨と大腿骨の間の関節症(膝蓋大腿関節症)が起きることがあります。
変形性膝関節症とQ角の関係
変形性膝関節症を2つに分ける
ここで、これまでのことをまとめてみましょう。
特に、変性膝関節症とQ角の関係は、混乱しやすいですので注意が必要です。
重要なのは、変形性膝関節症を以下の2つに分けることです。
- 脛骨大腿関節(FT関節)
- 膝蓋大腿関節(PF関節)
脛骨大腿関節
脛骨大腿関節とQ角の関係は次の通りです。
O脚変化=Q角減少
X脚変化=Q角増大
膝蓋大腿関節
膝蓋大腿関節とQ角の関係は次の通りです。
Q角増大=脱臼、膝蓋大腿関節症リスク増大
Q角に影響を与える、その他の要因
最後に、Q角に影響を与える別の要因も押さえておきましょう。
Q角は、脛骨粗面の位置によっても変化します。
よって、次の2つのことでもQ角に影響を与えます。
脛骨回旋による変化
- 脛骨が大腿骨に対して内旋すればQ角は減少する
- 脛骨が大腿骨に対して外旋すればQ角は増大する
大腿骨回旋による変化
上記のことを逆に言えば、次のようなことも言えます。
- 大腿骨が脛骨に対して外旋するとQ角は減少する
- 大腿骨が脛骨に対して内旋すればQ角は増大する
リハビリとの接点
X脚(外反膝)のリハビリ
X脚(外反膝)はQ角を増大させ、脱臼や膝蓋大腿関節症のリスクが上がるため、その改善が必要になります。
そこでは、内側広筋が重要になります。
内側広筋は、膝蓋骨の外側不安定性に対して拮抗するだけでなく、脛骨を内旋方向へ誘導することで、Q角を減少させるために働きます。
また、股関節外旋筋群も重要です。
股関節外旋筋群は、大腿骨を外旋方向へ誘導することで、脛骨粗面の位置を相対的に内側に位置させることができます。
それにより、Q角は減少させることや、もしくはQ角増大の抑制を期待できます。逆に言えば、X脚の方にとっては股関節周囲筋の筋力低下はリスクファクターであり、評価が必須と言えです。
まとめ
今回は、Q角についてまとめさせていただきました。
ここに書けなかったことでも、例えば足関節のアライメントとQ角の関係などを考えていくことも有効であると思われます。足関節のアライメントは、脛骨回旋角度と相関があるからです。
ぜひ興味のある方は、調べてみて下さい。
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