五十肩・投球動作での肩後方・外側部痛の原因について【 腋窩神経の絞扼-Quadrilateral space syndrome 】

五十肩(肩関節周囲炎)や、投球障害肩などで痛みが出やすい部位はいくつかありますが、その中でもよく患者さんが訴える症状は、次のようなものです。

『肩を動かすと腕の後ろや外側が痛む』

こういった症状は本当によくあります。

そのような腕の外側の痛みには、腋窩神経が関わっていることがあります。肩の後方で腋窩神経が絞扼(締め付けられること)されることで、腕の後外側部分に痛みが出ることがあるわけです。

今回は、そのような症状についてご紹介していきます。

 四辺形間隙症候群(Quadrilateral space syndrome )とは?

四辺形間隙症候群とは、何らかの原因で四辺形間隙=Quadrilateral space(以下QLS) にて腋窩神経が絞扼されて引き起こされます。とても難しく感じますが、要するに肩の後方で神経が締め付けられているということです。

ここでは、まずQLSの解剖を見てみましょう。

QLS周囲の解剖

肩後方には、小円筋大円筋、上腕三頭筋長頭で構成される3つのスペースがあります。(その内の一つは小円筋は関与しません)

➀内側腋窩隙(三角間隙):Trianglar space
➁外側腋窩隙(四辺形間隙):Quadrilateral space
➂三角間隔:Trianglar interval

それぞれを通過する組織

それぞれの隙間からは、以下のような動脈や神経がそれぞれ通過しています。

今回焦点を当てるのは、QLSを通過する腋窩神経です。

腋窩神経は、腕神経叢の後神経束から分岐した後に、腋窩部を背側へと向かい、QLSを通過して運動枝と知覚枝に分岐します。

どのような症状が起きるのか?

腋窩神経がQLSで絞扼された場合、次の症状が起きる可能性があります。

  1. QLS部での痛み。
  2. 肩関節後方・外側への放散痛。
  3. 三角筋の萎縮。

これらが起きる解剖学的な背景としては、腋窩神経の運動枝が小円筋と三角筋を支配しており、知覚枝は皮神経として三角筋の表層にて上腕近位外側面に向かっていることがあります。

生じやすいものといては、1と2の肩後方・外側部の痛みやシビレ感、脱力感が中心であり、3の三角筋の萎縮により肩外転動作困難に至るような重症例となるのは極めて稀です。

2の放散痛が出現する場所については、下の図でご覧ください。

腋窩神経の固有知覚領域

まさに、五十肩や投球障害肩の患者さんが、痛みを多く訴える場所です。

どのような時に起きるのか?

QLSでの絞扼は、常に起きているというよりは、肩の動作に伴って生じます。

どのような動作かと言うと、それは次のようなものです。

疼痛誘発動作
肩挙上動作
水平屈曲動作

症状発生のメカニズム

では、なぜこのような動作で痛みなどが出てくるのでしょうか?

このメカニズムを理解するためには、ペーパーカッターを思い描いていただくとヒントになります。

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ペーパーカッターは、「紙押さえ」で紙を固定した状態で、刃を引き下ろすことで紙を切断します。

これと同じことがQLSにて起きているのです。

「紙押さえ」の役割を果たしているのは、小円筋と大円筋です。

上腕三頭筋長頭は除外してあります。

上の図のように、肩下垂位では小円筋と大円筋は隙間があり、腋窩神経は自由に動きます。しかし、肩挙上位となると小円筋と大円筋の間が狭まり、ペーパーカッターの「紙押さえ」のように腋窩神経を挟み込むのが分かります。

ここから、さらに上腕三頭筋長頭が下方から上方へ向かって迫ってきます。

このように、小円筋と大円筋で挟み込まれた腋窩神経は、さらに上腕三頭筋長頭が、ペーパーカッターの「刃」のように上方へスライドしてくることで、腋窩神経はさらに絞扼を受けることになります。

また、この肢位から水平屈曲動作を行うと、上肢に引っ張られるように、腋窩神経には牽引ストレスが加わります。それにより、より一層症状が強まります。

どのような人に起きやすいか?

ここまで見てきたように、四辺形間隙症候群は、小円筋と大円筋、上腕三頭筋長頭により挟み込まれることで生じます。

その3つの筋肉の中でも、小円筋と大円筋は単関節筋として、関節の固定に深く関与しています。関節の不安定性が生じたり、関節に痛みがある場合には、単関節筋は容易に筋スパズムを起こします。

肩関節周囲炎などでは、疼痛のために、防御性に筋スパズムが生じることで、腋窩神経の絞扼が起きることを臨床においてしばしば経験します。

また、投球障害肩においては、肩外位での内外旋を繰り返すことで、四辺形間隙症候群を引き起こすことがあります。

特に、コッキング期(肩外転・外旋させる時)では、まさに先ほどの図のような絞扼が起きます。また、フォロースルー期(腕を振りぬく時)では腋窩神経に牽引ストレスが加わることで、症状が出ることが予想できます。

投球動作のバイオメカニクスは、こちらの動画をご参照下さい。

まとめ

ここでは、肩の後方・外側部痛について、腋窩神経の絞扼という観点から見てきました。

肩の痛みは色々な原因がありますので、あくまでも痛みの要因の一つになりうるという意味でこれを考えて下さい。

この原因を明らかにするためには、熟練した専門家による判断が必要となります。