【手首が上がらない!】橈骨神経麻痺による『下垂指』『下垂手』と、関連する筋肉や感覚障害について

『朝、目が覚めると手首が上がらなくなっていた』

こんな経験をされた方はいないでしょうか?

末梢神経障害の一つである橈骨神経麻痺により、このような症状が出現します。

急に手首を反ることができなくなると驚かれますが、大半は一過性のもので心配ありません。

しかし、中には症状が進行して、筋力低下や関節拘縮が進む場合があり、治療をしないと手が下に垂れたままになってしまうこともあります。

ここでは、橈骨神経麻痺による手の垂れ下がりについて、詳しく紹介します。

 橈骨神経麻痺とは?

原因

橈骨神経麻痺とは、橈骨神経が絞扼(締め付けられること)や圧迫、外傷などで損傷を受けることで発症します。

具体的な原因としては、上腕骨骨折や、睡眠中に腕を枕代わりにして長時間寝ているときなどに生じます。

自分がどのような姿勢で寝ているか自覚がない方もいらっしゃいますが、下の写真のように腕を頭の下にして寝るような癖がある方は要注意です。

腕枕などでも神経障害が起きるため、『Honeymoon palsy(ハネムーン症候群)』とも呼ばれることがあります。

橈骨神経の運動枝が支配する筋

橈骨神経の運動枝は、多くの筋肉を支配しています。

基礎知識として、ここではそれらを列挙していきます。

チェック
橈骨神経が支配する筋肉
上腕三頭筋
・肘筋
・腕橈骨筋
・長橈側手根伸筋
・短橈側手根伸筋
・尺側手根伸筋
・総指伸筋
・示指伸筋
・小指伸筋
・回外筋
・長母指外転筋
・長母指伸筋
・短母指伸筋

重要なのは、これらの筋肉のほとんどが、手首を反る動作や、指を伸ばす動作に関わるということです。このことは、橈骨神経に損傷が起きることで、指が伸ばせなくなったり、手首が上がらなくなる理由となります。

指が伸ばせなくなる状態を『下垂指』、手首が上がらなくなる状態を『下垂手』と呼びます。

下垂指

下垂指とは、手関節の背屈は可能ですが、全ての指のMP関節(中手指節間関節)の伸展ができなくなった状態です。

下垂手

下垂手とは、手関節の背屈・全ての指のMP関節の伸展のうち、どちらもできなくなった状態のことです。

橈骨神経の感覚枝が支配する領域

橈骨神経の損傷は、運動麻痺の他に感覚障害も引き起こします。

橈骨神経の感覚領域は、概ね下の図の通りです。

感覚障害では、橈骨神経浅枝の固有知覚領域に限局していることもあります。この固有知覚領域とは、下の図のような母指と示指の間の領域のことです。

神経の走行

厳密には、神経のどの部分に障害が起きたかによって、現れる症状も異なります。そこで、まずは橈骨神経の走行を見ていきましょう。

下の図を用いてご説明します。

  1. 腕神経叢から出た神経が腋窩を通過する。
  2. 上腕骨の背面に回り、橈骨神経溝を通過する。
  3. 外側上腕筋間中隔を貫いて前方へ出る。
  4. 深枝(後骨間神経)と浅枝に分かれる。
  5. 深枝はFrohse(フローゼ)のアーケードを通過する。
  6. 浅枝は、前腕を下行し、母指・示指・中指の背側へ向かう。

上の図のように、橈骨神経は腕神経叢から分岐した後、いくつかの神経に分岐します。混乱するために全てを記載することはできませんが、例えば上腕部で分岐する神経もあります。

上腕で分岐するもの・後上腕皮神経
・後前腕皮神経
・下外側上腕皮神経

障害部位による症状の現れ方の違い

ここでは、障害部位を3つに分類した上で、それぞれの症状の現れ方の違いを見ていきましょう。

上の【神経の走行】で示した図で言えば、➀・➁・➄の場所の3つです。

➀腋窩での圧迫

橈骨神経は、腋窩部での持続的な圧迫によって障害を受けます。

代表的な受傷機転としては、松葉杖の使用です。

脇当てを腋窩部で直接支持するのは、正しい使い方ではありません(正しくは、腋窩で挟んで使います)。そのような使い方を行うことで、腋窩部での橈骨神経は圧迫されます。

これにより、典型的な下垂手と感覚障害が生じます

障害される主な筋は、以下の通りです。

  • 腕橈骨筋
  • 尺側手根伸筋
  • 長撓側手根伸筋
  • 手指の伸筋群

➁橈骨神経溝での圧迫

橈骨神経溝では、冒頭で述べたような腕枕での圧迫や、骨折後の化骨の過剰な増殖による障害などにより麻痺が起きます。

橈骨神経溝の場所を判別するためには、上腕三頭筋内側頭の触診を行うことで可能となります。

上腕三頭筋内側頭は、肩を内旋位にして肘伸展していくと筋腹が盛り上がってきます。

その上腕三頭筋内側頭よりも近位が橈骨神経溝ですので、丁寧にその筋の付着部を追っていくことで、橈骨神経溝の位置が分かります。

橈骨神経溝での橈骨神経の圧迫においても、下垂手と感覚障害が生じます

これにより障害される主な筋は、腋窩で圧迫された場合と同じく以下の通りです。

  • 腕橈骨筋
  • 尺側手根伸筋
  • 長撓側手根伸筋
  • 手指の伸筋群

➂回外筋での圧迫

橈骨神経の深枝である後骨間神経が、回外筋の浅層で圧迫されることで引き起こされます。

後骨間神経は、回外筋を貫通するように走行しています。後骨間神経が回外筋の繊維性アーチである『Frohse(フローゼ)のアーケード』をくぐり抜ける際に圧迫を受けることになります。

これがいわゆる、回外筋症候群のことです。

この際には、典型的な下垂手や感覚障害は見られず、下垂指が生じます

これにより障害される主な筋は、以下の通りです。

  • 尺側手根伸筋
  • 手指の伸筋群

橈骨神経麻痺の診断

橈骨神経麻痺の診断としては、下垂手や下垂指の確認や、ティネルサイン(障害された橈骨神経部位を指や道具で叩くと、障害されている部位に放散痛が出ること)を確認します。

また、確定診断のためには、一般的に単純X線やMRI、筋電図や超音波検査などが行われます。

橈骨神経麻痺の治療法

橈骨神経麻痺の治療法には、保存療法と手術療法があります。

ここでは、保存療法についてご紹介します。

保存療法

保存療法では、以下の内容が一般的です。

  • 薬物療法
  • 装具療法
  • リハビリテーション

薬物療法

薬物療法では、NSAIDsなどの鎮痛剤・神経再生剤・ステロイド剤など)が使われることが多いようです。

装具療法

装具療法では、下垂手や下垂指による関節拘縮を予防するために、手関節背屈装具が処方されます。

下垂手に対しては、コックアップスプリント、トーマススプリント、オッペンハイマースプリントが用いられます。

下の画像はオッペンハイマー型です。

下垂指に対しては、MP関節伸展装具として、逆ナックルベンダーが用いられます。

リハビリテーション

リハビリテーションで最も重要なのは、筋力強化訓練です。使える筋肉をしっかり使うことが重要なので、代償動作(trick motion )に注意を払いながら、筋力トレーニングをおこなっていきます。

また、物理療法として電気刺激療法が行われることがあります。これは、脱神経筋における筋委縮をの予防のためです。

まとめ

橈骨神経麻痺は、その絞扼を受ける部位によって症状が異なります。

神経の走行をよく理解し、どの筋肉が障害されているのかを知ることで、対処法も明確になります。

おかしいと感じたなら、重症化する前に専門医の診察を受けることをお勧めします。