こんにちは、理学療法士のBaboonです。
日本では、1938年に国民健康保険法が制定され、1961年に全国の自治体で国民皆保険制度が始まりました。そのことを背景に現代では医療大国となっており、病院も今や選ばれる時代になっていることは周知の事実です。
2000年誕生した介護保険制度の枠組みの中では、介護サービスが「措置」から「契約」へと移行したことで、一層と利用者側がサービス提供側を選定する方向へ加速していることもあり、接遇の重要性はどこも認識が強いようです。しかし、どうも医療機関では、まだまだその認識が少ない傾向があります。
【医療接遇】というフレーズは、聞きなれない方もいらっしゃるでしょう。今回は、なぜリハビリ職にとって接遇が重要なのかをご説明いたします。
目次
【医療接遇】とは?
接遇とは、簡単に言ってしまえば、相手が快適に過ごすことのできる環境を提供することです。日本人が得意な、おもてなしの精神が含まれているようです。単に挨拶やマナー、言葉使いなどだけではなく、相手を思いやる気持ちが重要要素となっています。
医療接遇は、医療機関においてメディカルスタッフが患者さんに対して行うそれらの対応ということになります。
そして、医療接遇がもたらす最大の恩恵は、『信頼関係の構築』です。
【医療接遇】が重要となっている背景
- 『医療はサービス業』という認識が広がっている
- インターネットの普及とSNSや口コミサイトの存在
- リスクマネジメントの視点から
- 人口減少・一極集中などによる競争の激化
- リハビリは患者との関係が長期間に及ぶ
『医療はサービス業』という認識が広がっている
「病院」に限らず、「学校」などにも言えることかもしれませんが、昔は先生に治していただく、学ばせていただく、といった認識だったようですね。最近ではやはり病院に関しては、『医療はサービス業』といった感覚が患者さんの中にあるのをひしひしと感じます。
ただ、個人的には違和感ありますが、入院に“特別室”なんてよく見ることを考えると、やはりそういった側面は否めませんね。サービス業の側面がある以上、患者さんが、より良いサービスとしての医療を求めるのも無理はありません。
インターネットの普及とSNSや口コミサイトの存在
先日、子供が風邪を引いたので受診させようとインターネットで病院検索したところ、口コミサイトに次のように書き込まれていました。
リスクマネジメントの視点から
医療現場で働いていると、どうしても避けて通れないのが、精一杯努力して治療を行ったにも関わらず、患者さんの状態が悪化してしまうことがあることです。
大小の医療事故などのトラブルもあります。そんな時に、信頼関係が構築されていれば、問題を最小限にとどめることができます。
人口減少・一極集中などによる競争の激化
これは今後問題になる事柄です。次の表を見てください。

総務省:人口減少社会の到来より引用
人口がこのように減少することが示唆されており、病院はさらに選ばれる時代になりそうです。特に、人口は大都市への一極集中により、地方の病院ではさらに患者数の確保が困難となるでしょう。
【医療接遇】に関しては、他との差別化の一環として今よりもさらに重要視されるようになることが予想されます。
リハビリは患者との関係が長期間に及ぶ
リハビリは数か月単位で行うことが多いわけなので、セラピストと患者との関係性はとても重要です。場合によっては、「担当を変えてほしい」と言われることもあります。良好な信頼関係を得ることが必要になります。
【医療接遇】=【空間のコントロール】
【医療接遇】は、技術ではありません。ネット上には、アイコンタクトをしろとか、目線を合わせろとか、ミラーリングが重要だ、などと書いてあることがありますが、それは本当の接遇ではありません。どの患者さんにも一律の全く同じ対応をして、十分な効果があるはずがありません。
そういった小手先のテクニックではなく、本当の意味の【医療接遇】をご提案します。
理学療法士の“医療接遇レベル”を、僕は3つに分類しています。
レベル1:空気が読めない
患者さんが求めてもいないのに、世間話をベラベラしゃべったり、患者さんが何かを訴えようとしていてもそれに気づかない状態です。
これは学校を卒業したばかりの新人に多い傾向にあります。患者さんはお友達ではありません。学生のノリで、つい意味もなく自分の話を長々としてしまったりしていることがあります。患者さんによっては、気を使って合わせて下さっていることもありますが、それに気づけないようでは改善が必要です。
よく、ショッピングでも、ゆっくり商品を見ていたいのに店員にしつこく声をかけられて嫌な思いをした方は多いのではないでしょうか。
これが“医療接遇レベル”最低の状態です。
レベル2:空気が読める
相手が何を考え、何を訴えているかを理解し、それに対応した言動ができる状態です。ベテランのリハビリ職者は、経験により患者さんの雰囲気や様子だけで、その患者さんに必要なことができるでしょう。
例えば、外来患者でリハビリ室に入室してそわそわしている患者さんは、初めての新患かもしれませんから、声をかけなければいけないと察知します。
これは“医療接遇レベル”がまずまず高いと思われますが、もっと上があります。
レベル3:空気をコントロールする
レベル2の空気が読めるというものは、相手の出方に応じた後出しの対応です。そうではなく、【空気のコントロール】とは、あらかじめこちらから快適な空間を用意するということです。
人間は、予想していたこと通りのものだとしたら、感動はありません。例えば、旅行に行って旅館が「こんな感じだろうな」と想像していたとして、その通りだった場合、一定の満足はするでしょうが、感動しませんよね。しかし、旅館が想像以上に素晴らしくて、雰囲気も独特でなおかつ快適な環境であれば、感動して誰かに伝えたくなると思います。要するに、自分の想定外の素晴らしい雰囲気を持っている場所や人と接するとき、人は最も満足感を覚えるのです。
みなさんも一度は会ったことがあると思います。一緒にいるだけで、なぜか安心してくつろぐことのできる空気を持った人を。
そういった人間に自分がなるということです。これを意識的に行うには、『素質』と『経験』が必要です。相手のことを敏感に察知する才能が必要ですし、どのタイプの患者さんはどういった対応がベストかといった経験が必要です。
以前僕は、非常にこういった能力の高い上司の下で働いたことがあります。ある時この上司が、とある患者さんを担当することになりました。その方は、見るからにぶっきらぼうな30代の男性の方でした。挨拶もせずに治療ベッドにドスンと座り、ため息をついていました。僕は「やりにくそうだな」と遠巻きに見ていました。
しかし、上司が横で話し始めた途端にちょっと驚いたように態度が変わり、笑顔でリハビリが進んでいました。何がどうなったかは分かりませんでしたが、一つ言えるのは、上司の作る雰囲気や空気がそうさせたということです。
まとめ
明日からのリハビリにおいて、ぜひ今回お話させていただいた【医療接遇】を考慮して患者さんと応対してみて下さい。
お互いにとってメリットが生じると思います。