リハビリにおける、立ち上がり動作分析の基礎と臨床応用

立ち上がり動作は、“基本動作”の一つであり、日常生活を送る上で不可欠な要素です。多くの高齢の患者さんが心配する要素として

「将来歩けなくなったらどうしよう」というものがありますが、それに先立って、立ち上がり動作自体ができなくなることもあります。

立ち上がり動作は、坐位から立位といった静的場面から静的場面へと繋ぐための動作であるわけですが、それを分析することによって評価としても使えますし、指導方法のヒントにもなります。今回は、特に支持基底面と重心の関係について3Dを使って、立体的に動作を説明した後に、臨床への応用まで記載していきます。

支持基底面と重心の関係

支持基底面(base of support)とは、対象物を支持している基底となる面です。その大きさは、『対象物が支えられている底面で、その対象物と地面との接点の外縁を結んだ範囲』です。

この支持基底面の中に重心からの垂線が落ちることで、人間も安定するわけです。安定した動作には必要不可欠な要素であり、立ち上がり動作においても、そのことに着目することで動作指導につなげることができます。

立ち上がり動作の基礎

立ち上がり動作は、重心移動のみの観点から言えば、

  1. 重心が前下方へ移動する相
  2. 重心が上方に移動する相

に分けることができます。しかし、これをさらに3相に分類するのが一般的です。

  1. 第1相(屈曲相)
  2. 第2相(殿部離床相)
  3. 第3相(伸展相)

これは、第2相が最もリハビリにおいて問題となりやすいため、その相を際立たせる必要があるためでしょう。第2相では、先ほど述べた支持基底面と重心移動の関係が重要であり、そのことを理解することで問題点を明らかにすることができます。

それぞれをまず見ていきましょう。

第1相(屈曲相)

坐位姿勢

ここでは、端坐位からの立ち上がりを見ていきます。椅子は除外してありますが、あるものとして考えて下さい。決して空気椅子トレーニングをしているわけではありません(笑)。

チェックポイント1:頭部の位置(耳垂からの垂線が肩峰を通るか)
2:肩甲骨高さの左右差
3:頸椎・胸椎・腰椎の弯曲
4:骨盤傾斜・回旋
5:殿部への荷重バランス

赤色の面が支持基底面です。支持基底面は、殿部と両方の足底で囲まれた範囲となります。青色の矢印が重心からの垂線であり、重心がある位置からまっすぐ下方へ伸びていきます。

この矢印が落ちる位置が支持基底面のどこかにあれば、体は安定していると言えます。逆に、この矢印が支持基底面の外に落ちれば、立ち上がり動作においてバランスを失い、意図的な動きが困難になります。

体幹を前傾(屈曲)していく

まず、体幹を前傾させていき、体重を加える場所を臀部から大腿部へと移していきます。ここでは筋活動も重要となります。腸腰筋を中心とする股関節屈筋群による逆作用(これをリバースアクションと呼びます)を行うことで体幹は前傾します。そして、大殿筋や腰部多裂筋、脊柱起立筋群が遠心性収縮に働くことによって体幹前傾はブーレキが効き、動作は安定化します。

チェックポイント1:股関節屈曲ROMに制限はないか
2:大殿筋や多裂筋、脊柱起立筋群は協調的に動いているか

支持基底面は最初と変わりませんが、体幹前傾に伴い重心は前方へ移動し、重心線(青色の矢印)も前方移動しているのが分かります。しかしこれだけでは不十分です。この状態のままで立ち上がったと仮定しましょう。

支持基底面は臀部離床した際に、足底同士で作られた支持基底面へと移行してこなければいけません。体幹の前傾だけでは、支持基底面上に重心線が落ちにくい傾向にあります。この状態では立ち上がりは困難となります。

膝を屈曲していく


その対策のために、両側の膝を屈曲させ、足部を引きました。膝を屈曲することで、両足部の中間に重心が落ちるようにします。

チェックポイント1:膝屈曲可動域に制限はないか
2:足関節背屈可動域に制限はないか

支持基底面はまだ変わりませんが、重心線は両足部の中間に落ちるようになりました。これで殿部離床した際のバランスは改善され、効率的に立ち上がる準備が整いました。

第2相(殿部離床相)

ここでは、背筋群や膝屈筋群などの主動作筋は全て求心性収縮を行います。

チェックポイント1:腰部多裂筋・脊柱起立筋群の筋力低下はないか
2:大殿筋の筋力低下はないか
3:大腿四頭筋の筋力低下はないか
4:下腿三頭筋の筋力低下はないか
5:以上の筋同士の協調性に問題はないか

体幹前傾が十分に行われており、足部の位置にも問題がなれば、このような支持基底面と重心線の関係になっているはずです。重心は一旦前下方へ移動した後に、上方へと上がっていきます。

第3相(伸展相)

第3相では、第1相のような各関節可動域や、第2相ほどの各筋の収縮力は必要となりません。逆に、第1相や第2相での問題がここで大きく反映されることがあるので、注意して観察する必要があります。

チェックポイント1:体幹の前後左右の動揺や傾き
2:肩甲骨高さの左右差
3:骨盤傾斜・回旋
4:十分に股関節・膝関節・体幹は伸展しているか

股関節・膝関節・体幹の伸展がバランスよく行われていれば、支持基底面上に落ちる重心線は第2相と大きく変化しません。しかし、体幹の傾きや動揺が大きかったり、各部位の伸展が不十分であったときには、重心線は支持基底面から離れてバランスを崩します。

立ち上がり動作分析の応用

頭部の位置による変化

第2相において、殿部離床する際に十分体幹前傾ができないケースでは、頭部の位置を誘導しましょう。例えば、このように頸椎か伸展している例では、頭部は後方に位置しております。人体の頭部の重さは、成人において体重比で約10%と言われています。体重60Kgの人は頭部の重さが6Kgもあるわけです。この重さを利用することで、重心線をコントロールできます。

頸椎屈曲させ、頭部が前方に移動しました。このことにより、重心線は前方へ移動し、支持基底面上に落ちるようになることがあります。体幹前傾が何らかの原因で不十分な場合には代償として用いることができます。

上肢を前方へ伸ばす

頭部の例と同様に、上肢を前方へ伸ばすことで、重心線を前方へ移動することができます。大腿四頭筋の筋力低下がある方などは、大腿部を押さえて立ち上がった方が楽だというケースもあると思いますので、どちらが良いか症状を見ながら決める必要があるでしょう。

ワイドベースにする

第2相から第3相において、体幹動揺が生じる方に対しては、下肢をワイドベースとすることで支持基底面を広げてみましょう。支持基底面が広がることで安定性が良くなるということも当然ありますが、股関節内転筋群の中には、坐位のような股関節屈曲角度が大きいような位置からは、股関節伸展筋としても作用するものがあります。ワイドベースを取ることで、内転筋の張力は増すので、股関節伸展を補助する可能性もあります。

骨盤前傾誘導を行う

骨盤が前傾していた方が重心は前方移動しやすく、逆に後傾していれば前方への重心移動は妨げられます。随意的な骨盤前傾を行えない患者さんには、畳んだタオルなどを臀部の後ろ半分の下に入れて座るなどすることで、骨盤前傾位を意図的に作っておくと良いでしょう。しかし、可能な限り随意的な骨盤前傾動作を学習すべきなので、下の写真のようにセラピストが骨盤前傾誘導を促すような運動療法を行うのが良いでしょう。

重錘を使用する

いろいろな方法を試しても、うまくいかない場合は、支持基底面上での立ち上がりを学習するために、重錘を用いても良いでしょう。重錘を使うことで、用意に立ち上がり時の重心線を前方へ移動することが可能です。

まとめ

立ち上がり動作については、体の各肢位や道具を使って、条件をかえながら行うことで問題点を見つけやすくなります。また、同時に運動療法につなげることもできます。

基本は支持基底面と重心との関係を考えていくことですので、工夫しながら評価・治療を行ってみて下さい。

どうしても自助具が必要な方は、立ち上がり用の手すりが売られていますので検討してみてはどうでしょうか。