基本動作である、【寝返り動作】と【起き上がり動作】は、日常生活の中で必須なものです。
よって、この2つの動作が困難な場合には、なぜできないのかの問題点を見つけなければいけません。
動作における問題点を見つけるには、一つの大原則があります。それは
正常を知らなければ異常は分からない
ということです。
ここでは、正常な【寝返り動作】・【起き上がり動作】についての動作パターンやその必要な要素をご紹介します。
目次
寝返り動作の概要
寝返り動作とは?
寝返り動作は、臥位(寝た状態)から姿勢を変え、さらには起き上がりや歩行につなげるための最初の動作です。
寝返りの方法は、実に豊富にあり、動作パターンは人によって違うことも多々あります。
しかし、一般的な寝返りパターンは存在します。これは、最も効率よく体を使う方法であり、さらに起き上がり動作へつなげやすいものです。
寝返りの様々なパターン
寝返りのパターンは、体の回転(体軸内回旋)をどのように行っているかによって次の2つに大別されます。
- 屈曲回旋パターン
- 伸展回旋パターン
1:屈曲回旋パターン
これが、先ほども出ました最も一般的な寝返りパターンです。
言い換えれば、効率よく次の起き上がり動作へと移ることのできる方法になります。なぜなら、起き上がり動作も屈曲・回旋動作が重要になるからです。
屈曲・回旋パターンを簡単に言えば、次のようになります。
2:伸展・回旋パターン
伸展・回旋パターンは、何らかの理由で、前述の屈曲・回旋パターンを使えない方に見られます。具体的には上肢や体幹機能低下、頭部屈曲制限がある場合などが理由として挙げられます。
伸展・回旋パターンを簡単に言えば、次のようになります。
できるだけ屈曲・回旋パターンで寝返り動作を評価する
伸展・回旋パターンでも寝返りは可能なのですが、先ほども述べた通り、伸展・回旋パターンでしか動作ができない方というのは、起き上がり動作に必要な能力を有していないケースがあります。
よって、寝返り動作は、可能な限り屈曲・回旋パターンを中心に評価・訓練していく必要があります。
寝返り動作の運動学
ここでは、寝返り動作を、頭頸部・胸郭・骨盤帯の動きに分けて考えていきましょう。
この3つのパーツを、それぞれ独立したものとして考え、その連結方法を考えていくと分かりやすいです。これらの部位が順番に回旋していく動きこそが、寝返り動作の基本です。
物体の回転
その前提として、体の各パーツの回転する原理を見てみましょう。
赤の面が支持基底面であり、青の線は重心線です。
支持基底面に重心線が落ちていることで物体は安定します。物体自体が回転力を得るには、この青の重心線が、支持基底面を超える必要があります。
徐々に物体を持ち上げていくと、青の重心線が支持基底面を超えます。この際の支持基底面は地面と接触している一点となっています。
ここまできて初めて物体は回転力を得ます。そこまでは、物体を持ち上げる努力が必要です。体で言えば、筋力で持ち上げていくことが必要になるわけです。
しかし、ある時点から、自然に体が回転していくことになります。
回転しきってしまえば、支持基底面上に重心線は再び落ちることになりますので、物体は安定することになります。
寝返り動作においては、各パーツそれぞれが、このように重心移動を行い、最終的には体全体の重心が支持基底面を超えて移動することで、動作が完成されることを覚えておいてください。
実際の寝返り動作
それでは実際の寝返り動作を見ていきましょう。
下の3Dイラストを使って進めていきます。最初は、背臥位からのスタートです。ここから左回りに寝返りを行います。
第1相:頭頸部の屈曲・回旋
最初は、頭頸部の屈曲と回旋から始まります。
第1相のゴールは、頭部が持ち上がり、体幹と連結した状態で維持されることです。
この相では、頚部の屈筋群である、胸鎖乳突筋・頸長筋・頭長筋・斜角筋などが働きます。
この時、体幹や下肢が体重により地面に固定されているために、可動域に問題がなく、筋が働きさえすれば、比較的安定して頭頸部の屈曲を行うことができます。
しかし、より効果的に頭部を持ち上げるには、腹筋群が働くことが重要です。体幹と下肢をつなぎ合わせることで、より一層固定側の安定は増します。
上の図のように、頸部屈筋群だけの働きでは骨盤帯の連結が得られません。腹筋群が働くことで、骨盤帯や下肢の重みも使えるようになることに注目して下さい。カウンターウエイトを利用するということです。
以上のことから、この第1相と関連する評価項目としては、次のことになります。
- 頭部・頸部の可動域
- 頚部屈筋群・腹筋群の筋力
- 頚部筋と腹筋群の協調性
第2相:肩甲帯の屈曲、上部体幹の回旋
ここでまず重要なのは、左肩甲帯の屈曲(プロトラクション)と、左上肢のリーチ動作です。
第2相のゴールは、上部体幹の重心が、支持基底面を超えることです。
この相では、肩甲胸郭関節や、胸椎の回旋可動域が必要になります。胸椎は、回旋には有利な解剖学的構造をしており、胸椎全体で約30°の回旋が可能です。
ここで重要なのは、前鋸筋や腹筋群の筋力です。
特に、頭部と上部体幹を固定しておくために、腹筋群はより強く働く必要があります。
以上のことから、この第2相と関連する評価項目としては、次のことになります。
- 肩甲骨外転・肩甲帯屈曲の可動域
- 胸椎の回旋の可動域
- 前鋸筋・腹筋群の筋力
第3相:骨盤帯の回旋
最後は、残った骨盤帯を回旋させる必要があります。骨盤帯が回旋すれば、下肢は自然についてくるでしょう。
見た目は骨盤が回旋しているように見えますが、腰椎は回旋可動域に乏しいため、実際には腰椎の屈曲などが行われています。
ここで重要なのは、今までは骨盤帯や下肢の重さで固定しましたが、ここからは固定する側が逆になるということです。
上部体幹や上肢で固定を行い、それにより腹筋群を使って骨盤帯を回旋させる必要があります。また、股関節を屈曲させていくことで、より一層骨盤帯の重心線は前方へ移動しますので、回転しやすくなります。
以上のことから、この第3相と関連する評価項目としては、次のことになります。
- 腹筋群の筋力
- 腰椎の可動域
- 股関節屈曲可動域と筋力
- 上肢の支持性
起き上がり動作
起き上がり動作は、寝返り動作と似ている部分がたくさんあります。
というよりも、むしろ起き上がり動作というのは、寝返り動作の延長線上にあると言ったほうが適切かもしれません。
違いがあるところは、側臥位になった時点から、片肘をついた前腕支持(on elbow)になり、さらにそこから手掌をついた手掌支持(on hand)になることです。
on elbow
on elbowは、どのタイミング行うのが良いのかというと、体幹の回旋と同時期に行うのがベストです。
よって、寝返り動作で言えば、第2相から第3相の間に完成させる必要があるのです。
ポイントは、肩関節を軽度屈曲・外転位で保持した状態で、体を回旋させることです。体幹の回旋とともに肩甲胸郭関節を固定させ、体幹の回旋する支点を肩から肘へと移動させる必要があるのです。
その際には、肩甲上腕関節の固定も重要なので、腱板筋群にも頑張ってもらわなければいけません。
以上のことから、このon elbowと関連する評価項目としては、次のことになります。
- 肩甲胸郭関節周囲の筋力(菱形筋・前鋸筋・僧帽筋等)
- 肩甲上腕関節の可動域や筋力(腱板筋や三角筋等)
on hand
on elbowになった後は、on handで体幹をさらに持ち上げていく必要があります。
on handで重要なのは、やはり支持基底面と重心の関係、そして上腕三頭筋の筋力です。
on handでは、下肢と一側上肢で作られた支持基底面上に、体幹の重心を持ってくることが必要になります。
バランスを崩しやい場合には、反対側上肢の支持も活用すると良いでしょう。そうすることで、支持基底面はさらに大きくなるので、安定性が増します。
on handと関連する評価項目としては、次のことになります。
- 手関節の可動域・支持性
- 上腕三頭筋の筋力
- 体幹の位置のコントロール
まとめ
寝返りと起き上がりという基本動作についてご紹介してきました。
冒頭でも述べましたが、これらの動作にはいくつものパターンが存在します。その人それぞれで、最適な動作がある可能性もあります。
今回ご紹介したことを参考にしていただき、詳細な動作分析をしていただくことが大切です。