理学療法士の年収・給料が低下している原因と増収のコツ

理学療法士の給料や年収について漠然とした不安感を抱いている方が多いでしょう。確かに、理学療法士の平均年収は現在大体390万円と言われており、高所得は言い難い現状があります。

19世紀アメリカの思想家・エマーソンの言葉に、『恐怖は常に、無知から生まれる。知識は恐怖の解毒剤である』という名言があります。

理学療法士が漠然と不安を感じている理由は、このことに他なりません。なぜ理学療法士の年収が高くないのかの原因を“知る”ことで、不安は解消し、今後何をすべきかを理解できるかもしれません。ここでは、理学療法士の給与の低い原因を探り、対策を考えてみます。

理学療法士の平均年収はなぜ低迷しているのか

よく、「診療報酬が下げられているから理学療法士の給料は低いんだ」

と言う方がいらっしゃいますが、おそらく理学療法士の年収に関する問題はそんなに単純ではないでしょう。

理学療法士の平均年収・給料が昔に比べて下がっている理由は、大きく分けて以下の3つの段階があると考えています。

  1. 理学療法士の働く場の変化
  2. 理学療法士による供給動態
  3. 需要と供給バランス

1:理学療法士の働く場の変化

1963年に日本で初めてリハビリテーション養成校が設立され、今から約50年前の1966年に理学療法士が誕生しました。その後、1900年代後半においては、医療費の抑制政策の中においても、リハビリテーションの価値はある程度認められており、リハビリに関わる診療報酬は引き上げられる傾向にありました。

しかし、下の図のように、高齢化を背景とした医療費はどんどん膨らんでおり、国の医療費抑制政策は急務な状態でした。

リハビリテーションに関する激動のきっかけは、2006年の診療報酬の改定です。2006年の診療報酬改定では、改定率マイナス3.16%と過去最大の下げ幅となった上に、以下の改正がありました。

  1. 「理学療法」・「作業療法」・「言語聴覚療法」といった種類別の点数から、「脳血管疾患等」・「運動器」・「呼吸器」・「心大血管疾患」の4つに点数評価体制が変化しました。
  2. 算定上限日数が定められました。

2.は、例えば「脳血管疾患のリハビリは180日まで、運動器のリハビリは150日までしかリハビリはできません」、といったものです。これにより「リハビリ難民」という言葉が生まれたり、署名活動が行われるなど大きな反発が生まれました。

そして、さらに2000年に施行された介護保険が後押しとなり、その後、リハビリテーションは急性期・回復期リハビリから“早期の維持期リハビリ”へと徐々に追いやられてきているのです。そのダメ押しとして、2016年の診療報酬改定では、病院において行う維持期リハビリテーション(介護認定を受けている場合)は、加算が取れなければ本来算定できる金額の半分以下しか請求できないほど下げられました。

病院においてリハビリができなくなれば、当然病院での理学療法士は仕事が少なくなります。こういった背景の中において、近年理学療法士の求人は介護保険領域において激増してきているわけです。求人サイトなどを見ると、確かに医療機関よりも全体的に介護分野の求人数が多いのが分かると思います。

理学療法士が働く場が、このように変化してきていることを、まずは最初に理解する必要があります。

2:理学療法士による供給動態➀

まず理学療法士の数ですが、毎年約1万人ずつ誕生しており、現在は10万人をはるかに超える理学療法士が日本にいます。

これだけ理学療法士が増えてきた背景には、養成校の乱立がよく要因として挙げられています。逆に言えば、それだけ理学療法士を目指す人が多いから養成校も増えているわけです。これは、“理学療法士”がそれだけ“安泰”な仕事として考えられてきた結果でしょう。

みなさんは【失われた20年】という言葉をご存知でしょうか。バブル崩壊後の90年代から20年間に渡り経済が低迷した時期のことを指します。そのような背景を受けて、企業の終身雇用制度が崩壊するのではないかとの危機意識から、公務員や安定した仕事への人気が高まりました。

その最中であっても介護保険制度は誕生し、介護ビジネスは発展してきました。これからの高齢化する社会において、安定した医療や介護の需要に守られた理学療法士は安泰だと考えられるのも想像しやすいわけです。特に、先に述べたように1900年代後半から2000年代初期においては理学療法士は不足しており、年収・給料は高い傾向にありました。理学療法士はまさに未来の仕事だったことでしょう。

理学療法士の供給動態➁

理学療法士を志す人間は、医療機関を就職先に考えているケースが多い傾向にあります。中核病院や大学病院のように、高度な技能を身に着けることができ、かつ安定した場所に就職したいわけです。そのような場所は競争率が高く無理だとしても、せめて小さな場所でもいいから医療機関で働きたいとほとんどの新卒者が希望していることでしょう。

これは、大企業の方が中小企業よりも安定しているという現代社会の認識が反映されているのかもしれません。

3:需要と供給バランス➀

よく、「買い手市場」や「売り手市場」という言葉を聞きますが、これはリハビリの業界に言い換えれば、「買い手=採用したい病院・施設側」であり「売り手=理学療法士」ということです。

下の図を見て下さい。どんな仕事も需要と供給で成り立っており、需要曲線と供給曲線が交わる場所(P)で価格(この場合で言えば給料・年収)が決まります。

当然のことながら、供給(理学療法士の数)が増えれば給料・年収は下がり、逆に需要(採用したい病院・施設など)が増えれば給料・年収は上がります。

医療分野における需要と供給バランス➁

ここまで見てきたように、現在のリハビリテーションの需要は医療分野から介護分野へとシフトしてきています。それにも関わらず、医療分野への根強い人気があるわけです。

医療分野の理学療法士については、上の図で言えば、毎年理学療法士は続々と誕生することで供給曲線は右方向へシフトしていきますが、需要曲線は停滞するかもしくは減っていく可能性まであるので、今後そこに留まるか左方向へシフトしていくでしょう。その結果、お互いの線の交わるP点(年収・給料)は当然下落していきます。ここで問題なのは、たとえ診療報酬の問題が存在せず、理学療法士がきっちり病院へ利益を還元できたとしても、需給バランスが崩れれば年収・給料は下がっていくということです。

介護分野における需要と供給バランス➂

ここで疑問なのは、それでは需要が増えている介護分野では給料が上がるはずなのに、大きな実感がないことです。確かに一部の介護保険サービス(今だと訪問系など)は給料が高く設定している傾向がありますが、全体としてはそこまで高くありません。
これはおそらく、需要は増えているので需要曲線は右にシフトしてきていますが、全体としての理学療法士の数が多いことで供給も増えており供給曲線もまた右へシフトしているからでしょう。そうなれば、P点(年収・給料)は上昇しません。よって、介護分野に関して言えば、今後理学療法士の総数が減ってこれば、医療分野よりも早期に年収・給料が上がってくる可能性があります。

今は異常事態なのか?

結局のところ、理学療法士の供給過多が最も大きな年収・給料低迷の理由でしょう。しかし、これは異常なことでしょうか?僕はそうは思いません。

うま味のある業種に人が殺到するのは当然のことであり、今までが特需であっただけで、近いうちにこの需給バランスは落ち着くと思われます。年収が高給なわけではなく、医療分野で就職が難しくなっていていると分かれば、自然と供給は減ってくるでしょう。いわゆるアダム=スミスの『神の見えざる手』と呼ばれる市場経済の自動調節機能が働くわけです。

理学療法士が年収・給料を上げるコツ

よく考えてみれば、世の中は競争社会で生きているわけです。コンビニエンスストアなどは、明らかに供給過多に見えますが、毎年増収している企業もあるわけです。

【理学療法士である】ことだけで安泰な時代は終わりました。今後は、理学療法士であること自体は前提条件として、その上で【何ができるか】です。

一般的には、「ベテランでも若手でも20分1単位の診療報酬は変わらないから頑張っても無駄だ」との風潮があります。おそらくほとんどの理学療法士は、低いと言っても生活できないほどの収入ではないために、現状維持から脱却できずに行動に出ていません。そこにチャンスがあります。

昇給は期待しない

今のご時世、公務員や大病院でない限り、昇給を期待するのは厳しいです。同じ仕事をしてどんどん収入が増える仕事はないと割り切った方が良いでしょう。

世の中の中小企業平均である、「基本給の1,5%」程度の昇給があれば御の字だと思われます。

昇格を狙う

どんな組織にも課題はあります。課題を解決できる人間は重宝されます。職場環境を改善させるための提案書や企画書を積極的に出すことや、ミーティングで意見を出し、自ら行動していく姿勢があれば、昇格は誰にでも可能性があります。

「出る杭は打たれる」という言葉もありますが、それは環境によります。そういった活動を行うことが奨励されている場所へ就職することが前提となるでしょう。

僕は現在の整形外科に勤務して4年ですが、以前からいたスタッフよりも早く管理職のポストをいただきました(僕の上に上司がまだいらっしゃいますが)。何をしたかと言うと、リハビリテーション科の問題点をまとめ、3か月間ほど週1~隔週くらいの頻度で事務長の部屋に通い詰めました。そして、特別にミーティングをセッティングして改善策を検討し、リハビリテーション科の上司とスケジューリングしながら少しずつ実践していきました。実際には効果がそれほど出ているわけではありませんが、そのような姿勢を評価していただいた結果と思われます。

僕はそれほど能力がある方ではありませんが、努力次第で誰にでも昇格する可能性があることを学びました。

インセンティブを狙う

インセンティブとは、給料の他に出来高による報酬を受けることです。特に、介護保険領域において相手が民間企業である場合には、可能性があると思います。

実際に、訪問リハビリではインセンティブが支払われているケースがありますし、僕の知り合いはデイサービスを何店舗か管理することでインセンティブを受けています。

そういったシステムが現段階でない場所でも、交渉次第で可能性のある場合もあるかもしれません。

副業をする

副業は効率的な増収方法です。ただし、単に体を使って労働力を切り売りするような手段は身を滅ぼす危険があります。なぜなら、理学療法士の仕事は体への負担もありますので、週6~7日働いてしまっては将来自分がリハビリを受ける必要が出てくるかもしれません。

ねらい目なのは、セミナー講師・セミナー運営管理(増えてきた理学療法士の世界は新しい市場となっています)、ブログ運営、養成校講師、クラウドソーシングです。僕はその中のいくつかをやっていますので、よければのぞいてみて下さい。

理学療法士が副業で専門学校講師をやってみて分かったこと

理学療法士が副業でクラウドソーシングをやってみた

理学療法士こそ副業でブログを始めるべき3つの理由

転職する

転職をするときには、ここまで書いた内容のことが達成されやすい場所を選ぶことも重要です。給料で選ぶことも大事ですが、給料を上げていく環境が整っているかどうかを判断する必要があります。

  • 上司は意見を尊重するタイプの人間か?
  • 職場環境を各自が改善していくことを奨励しているか?
  • インセンティブ交渉などができるか?
  • 副業が可能か?

転職は最も手っ取り早く年収を上げる手段ですが、デメリットも多くあります。しっかりと準備をして取り組まないと、大きな後悔をするはめになることもあるので注意が必要です。

理学療法士が転職する際に注意するべきこと

介護領域でのリハビリを発展させる

ここまで見てきたように、今後は介護保険領域でのリハビリテーションの比率が多くなってきます。今までのように、医療分野に固執していては、理学療法士は職域を広げられません。今後は、いかに介護保険制度下において、高い水準のリハビリテーションを行い、効果があるかということを社会にアピールしていく必要があります。

ただ、そうは言っても現在の維持期におけるリハビリは効果が出にくいのもまた事実です。

維持期(生活期)リハビリの現状と今後の課題

しかし、今後はより“早期の維持期リハビリ”を国が推し進めていることから、今までであれば回復期として取り扱っていたような、機能改善に関する伸びしろをもった方が介護保険領域でのリハビリへ流入してくることでしょう。そこで、「あそこの事業所のリハビリは腕がいい」という噂が立てば、利用者は増えていく可能性があります。介護保険領域でのリハビリは、すでに選ばれる時代になってきています。そのような評判が立てば、先ほどのインセンティブ交渉もしやすくなるでしょう。

まとめ

現在の理学療法士を取り巻く環境は、すでに競争社会に入っています。いち早くそれに気づき、行動していった人間とそうでない人間には、将来差ができると思われます。学術的な勉強も当然のごとく重要ですが、それだけでは頭打ちしてしまう将来像がもはや身近に来ていることを実感しています。