肩関節のリハビリにおける、肩甲上腕リズムの臨床応用

理学療法士や作業療法士なら誰しも知っている『肩甲上腕リズム』ですが、意外にそのメカニズムをどのように臨床に応用していくかということはあまり議論されていません。

ここでは、肩甲上腕リズムをリハビリに活かしていくために必要な事柄をできるだけ分かりやすくまとめていきます。

肩甲上腕リズムとは?

肩甲上腕リズムは、1934年にCodmanが肩挙上運動に伴って生じる肩甲骨の回旋運動を、scapulo-humeral rhythm(日本語訳:肩甲上腕リズム)と名付けました。そして1944年にInmanらによってこのリズムの研究が行われました。この研究の中では、運動の解析に生きた被験者の肩関節にピンを直接挿入して2次元のX線データを収集しています。今の時代ではちょっと考えられませんね。

その研究を通じて、このリズムは外転30°を超えると、肩甲上腕関節と肩甲骨が2対1の割合で動くということを報告しています。外転30°までは、肩甲骨が胸郭に固定されている時期(setting phase)です。

要するに、外転180°の可動域の中において、肩甲上腕関節が120°動くことに対して肩甲骨の上方回旋は60°生じ、運動比率は2:1で一定しているということです。

実際に見ていきましょう。

外転30°

ここでは、まだsetting phaseなので、肩甲骨はほとんど動いていません。肩甲上腕関節のみで30°の外転が行われています。

外転60°

30°のsetting phaseから、さらに30°外転した角度です。肩甲骨の上方回旋が多少は生じてきました。

外転90°

外転90°では、特に僧帽筋や前鋸筋が働いてきます。それにより、肩甲骨上方回旋角度は徐々に大きくなってきています。

外転120°

外転180°

このように、肩甲上腕関節と肩甲骨が連動して動いているのが分かります。

肩甲上腕リズムの概念から得られる恩恵

最も大きな恩恵は、【肩の挙上動作には、肩甲骨(肩甲胸郭関節)の動きが必須である】という理解が得られることです。

実際には肩甲上腕リズムの運動比率は、2:1という定説以外にも、諸家の報告に結構ばらつきがあります。また、性差や年齢による違いなども指摘されています。

しかし、重要なのは肩の挙上運動が肩甲上腕関節だけで行われているのではなく、肩甲骨の動きを含めて『肩関節複合体』として捉えなければいけないということが分かることです。

正確には、『肩甲骨の動き』というのは胸鎖関節と肩鎖関節によって構成されていますが、ちょっとマニアックな話になるので興味ある方のみ参考にして下さい。

【肩甲胸郭関節へのアプローチ】胸鎖関節と肩鎖関節の理解で肩のリハビリは捗る。

臨床にどうやって応用するの?

実際に2:1の動きを徒手的に目視で評価するのは困難です。左右差を見ながら工夫していけば何とかなるかもしれませんが、ここでは小難しい話は抜きにします。

使うのは、以下の事実です。

肩の可動域は、肩甲上腕関節と肩甲骨上方回旋の合算。
⇒肩甲骨が動かないと肩は180°まで上がらない。
⇒肩甲骨を動かないようにすれば、肩甲上腕関節単独の問題が見えてくる。

例えば、リハビリによって拘縮のある肩挙上角度が180°まで改善したとしましょう。しかし、実際には「肩甲上腕関節150°+肩甲骨上方回旋30°」ということもあり得ます。そうであれば、肩甲骨上方回旋はまだ制限があるばかりか、肩甲上腕関節は過剰に動きすぎていることになります。これでは改善したと言えません。

あくまでも、両者の正常な可動域同士の合算において180°を達成されなければいけません。

肩甲骨が動かないようにする操作方法

肩甲骨の下角~外側縁を押さえる

このように、肩甲骨が動かないように徒手的に止めました。こうすることで、肩甲上腕関節単独の動きを見ることができます。

肩甲骨の止め方は、他に鎖骨と肩甲棘を把持する方法もあります。

母指で鎖骨を、示指~小指で肩甲棘を持って把持している

これで何がわかるのか?

肩の拘縮がある患者さんなどに対して、肩甲骨を止めた状態で左右差を見ることで、肩甲上腕関節単独の問題が分かります

例えば、関節包性の拘縮や回旋筋腱板の短縮などの問題があるかもしれません。または、棘上筋と三角筋の協調性が失われていたり、肩峰下滑液包周囲での拘縮も考えられます。

逆に言えば、肩甲骨を止めた状態で可動域に左右差がないにも関わらず、肩甲骨をフリーにした状態で可動域に差があれば、肩甲骨の上方回旋が不十分である可能性が高いと言えます。

そうであれば、前鋸筋や僧帽筋の筋力低下や、肩甲挙筋や菱形筋の短縮、さらには胸鎖関節・肩鎖関節の拘縮などを疑ってみるわけです。

まとめ

このように、肩甲上腕リズムの応用では、実際の2:1の比率を徒手的に目視だけで評価するのは困難ですが、『肩甲上腕関節と肩甲骨の動きの差』ということをシンプルに評価することで、治療の助けになります。

肩のリハビリにおいては、非常に有用と思われますので、ぜひご参考下さい。

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