『腹筋トレーニング』
この言葉を聞いて、どんな運動をイメージしましたか?
おそらく、ほとんどの方が下の写真のような姿を思い浮かべたのではないでしょうか。
これは腹筋トレーニングの中でも代表的なクランチというものですね。
もちろん腹筋トレーニングとしては十分効果があるのですが、腰痛を持病で持っている方や、高齢者には体への負担が強すぎます。
今日はそのような方々に向けて、比較的腰への負担が少ない腰痛トレーニングを、理学療法士としてご紹介します。
目次
腰に負担が強いってどういうこと?
腰椎というのは、曲げたり反ったりする時に痛みが出やすい傾向にあります。
今回の場合で言えば、腰を曲げるような動作になりますので、やはり強い力が腰部に何らかの形で加わることが予想できます。
まずはそれを簡単に見てみましょう。
体を前屈すると腰はどうなる?
正常な腰椎
まずは、正常な腰を以下の図で見て下さい。
腰椎は生理的にゆるやかに前方へカーブしています。
前屈時に注目するべきは、椎間板と腰背部の筋肉です。
前屈動作とは?
体を前屈する動作とは、次のような動きです。
このように体を前屈させると、腰では一体どのような変化が起きるでしょうか。特に先ほど注目した2つの部位を中心に見てみましょう。
前屈時の変化
体を前屈させる時に最も影響を受けるのは、やはり椎間板と腰背部の筋肉です。これらの組織は、前屈に伴い、次のような負担を強いられることになります。
- 椎間板は潰されるような力が加わる。
- 腰背部の筋肉は引き延ばされるような力が加わる。
耐えられないような負荷を加え続けた場合、腰椎椎間板症や、腰椎椎間板ヘルニア、筋筋膜性腰痛症といった病気へ発展することもあります。
腹筋トレーニングの方法を工夫しよう
寝た状態から体を起こすような動作(腰を曲げる動作)では、負担が強いことを見てきました。
このようなトレーニングは、とりわけ腰痛が元々ある方や、高齢者には向かないことが分かります。
それでは、どのようなトレーニングをすれば良いでしょうか。
2つの工夫をご提案します。
腹横筋を使う
腹横筋とは、腹筋群の最深層部にある、いわゆるインナーマッスルです。帯状に筋肉の繊維が横に走っています。
どこの部位のインナーマッスルもそうなのですが、インナーマッスルの特徴は、体の固定に働くということです。
腹横筋も、腰椎を中心とした背骨の固定のために働きます。それにより、腰椎が安定することで、骨や周囲の筋肉への負担を減らします。
簡単に言ってしまえば、コルセットを着用したような状態になるといったところでしょうか。
この腹横筋を使うことが、腰への負担を考慮した工夫その1となります。
リバースアクションを使う
聞きなれない言葉だと思いますが、リバースアクションとは、日本語訳すれば『筋肉の逆作用』ということになります。
例えば、ペットボトルを持ち上げるような動作をまず思い描いて下さい。そのような動作では当然手が動きます。これは、上腕二頭筋(力こぶの筋肉)が主体に働くからです。
しかし、懸垂のような動作では、先ほどと同じ上腕二頭筋が働きますが、手が動く代わりに体が動きます。
要するに、どちらが固定されているかで、同じ筋肉でも動く側が変わるということです。
これをうまく使えば、腹筋トレーニングも、体幹側を動かさなくても良いことになります。
これが、腰への負担を考慮した工夫その2です。
体幹を動かさなくても良いということは、腰椎を曲げなくても良いということになるからです。
実際のトレーニング方法
それでは、腰椎への負担を2つの工夫で軽減しながら行う、以下の腹筋トレーニングをご紹介します。
- ドローイン
- ドローインの応用
- リバースアクションを用いた腹筋トレーニング
ドローイン
ドローインは、比較的有名なトレーニング方法の一つです。
先ほどの、腹横筋をトレーニングするのに適した運動であり、腰椎の安定化作用があります。
スタートポジション
スタートポジションは、このような姿勢です。
必ずしも両ひざを立てる必要はないのですが、腹横筋の収縮を感じ取りやすいので、最初はこのような姿勢が良いと思います。
両手は、腰と床の間に入れます。これも肩が痛かったりすれば無理にする必要はありません。
トレーニング手順
ドローインの手順は、次の通りです。
- 鼻から大きく息を吸う。
- 口をややすぼめながら、大きくゆっくりと息を吐く。
- 息を吐きながら、背中を床へ押し付ける。
上手に腹横筋を収縮させるコツは、お腹周りに帯を巻いているようなイメージを持って、息を吐くと同時に帯が締まってくるような意識を持つことです。
ちょうど帯が締まってくるかのように、腹横筋は収縮するからです。
このドローインが、基本中の基本となります。
それでは、ドローインの応用を見てみましょう。
ドローイン応用
ここでは、座った状態で応用を行ってみましょう。
ドローインを使った応用のトレーニングですが、腰への負荷はそれほど強くありません。
スタートポジション
スタートポジションは、このような姿勢です。
お尻の後ろ半分に、タオルを畳んだものなどを差し込みます。これにより骨盤が直立します。座った状態は、寝た状態よりも体重が加わるため、腰が前屈するような負荷も加わりやすいので、このような工夫を行います。もしタオルを入れなくても骨盤が直立できていれば、省略しても構いません。
トレーニング手順
手順は次の通りです。
- 鼻から大きく息を吸う。
- 口をややすぼめながら、大きくゆっくりと息を吐く。
- 息を吐きながら、片方の膝を伸ばしていく。
この際に注意するべきことは2つあります。
1つ目は、骨盤が直立した位置を保持することです。膝を伸ばすと、骨盤は後ろへ倒れようとします。それをさせないように、息をはきながら体幹をまっすぐに維持します。
2つ目は、先ほどのドローインを行うということです。膝を伸ばしながら、お腹を凹ませていきます。先ほどと違うところは、お腹を凹ませながらも腰はまっすぐと直立させておくということです。
この方法が可能になれば、立っていても、歩いていても、どんな時でも腹横筋のトレーニングを自分で出来るようになります。どうすれば腹横筋が収縮するかを自覚するようになるからです。
「あ、今筋肉がちゃんと働いているな」
こういった感覚が出てこれば、成功です。
リバースアクションを用いた腹筋トレーニング
これは、レッグレイズと呼ばれるトレーニングを簡単にしたものです。
通常のレッグレイズも、リバースアクションを用いた腹筋トレーニングですが、腰椎への負荷が結構強いので、ここでご紹介するものはそれとは分けて考えて下さい。
スタートポジション
スタートポジションは、ドローインの際と同じで結構です。
トレーニング手順
トレーニングの手順は以下の方法です。
- 股関節・膝関節90°まで曲げる。
- そこから、膝を伸ばしていく。その際に反対の足は床につけて支える。
- 以上のことを、できればドローインを行いながら実施する。
それほど腹筋トレーニングとしての効果が高いわけではないですが、比較的腰椎への負荷が少ない状態で運動ができます。
もし出来そうであれば、➀は省略して、膝を伸ばしたまま➁のように足を挙げても結構です。その方が腰への負荷は多少上がりますが、トレーニング効果も上がります。
まとめ
腹筋のトレーニングを行う際には、腰椎の構造を理解した上で、どのようにすれば負荷が減少しするかを考えます。
また同時に、その中でトレーニング効果を最大にするために、負荷量も調節する必要があります。
特に腰痛を持っている方や高齢の方に対しては、腰椎への負荷とトレーニング効果のバランスを取りながら運動することが、とても重要です。