特別支援学校に通う、肢体不自由の障害を持つ子ども達に対するリハビリの在り方については、まだ十分な体制が作られておらず、改善するべきとの意見が以前から出ています。
障害を持つ子ども達は、自分の思うように体を動かせなかったり、自分の意思を外へ発信しにくかったりと、健常者には到底想像も及ばない努力をしています。
その中でも、脳性麻痺などの脳性疾患は割合が多い傾向にあります。
運動障害の発症原因別に見ると、特別支援学校(肢体不自由)において最も多いのは脳性疾患
引用:国立特別支援学校教育総合研究所「肢体不自由とは」
僕は、今まで脳性麻痺の子ども達を、障害に付随する整形疾患としてリハビリに携わってきました。
その中で感じたのは、全国の全ての特別支援学校に、早急に専科の理学療法士を常勤として配属させるべきだということです。
目次
障害を持つ子どものリハビリの特徴
子どものリハビリと、大人のリハビリでは、明らかに異なる点があります。
それは、『子どもの身体は成長する』ということです。
成長に合わせたリハビリをする必要があるというのが、障害を持つ子どもに対するリハビリの原則です。
良い方向へ促すと、限界はありますが、子どもはそちらの方向へ成長していきます。逆に、悪い方向へ少しでも向かっていれば、成長とともにどんどん体の状態は悪化していきます。それは、山の頂上から左右どちらかの麓へボールを転がすようなものです。良い方向へも悪い方向へも、ボールは自然に転がっていきます。
重要なのは、障害を持つ子どもが、どちらの方向へ向かっているかを正しく評価し、必要に応じて促しを与えていくことです。
運動発達について
脳性麻痺について言えば、様々な身体的な支援が必要です。
その中には、好ましくない姿勢反射を抑制したり、運動発達を促すといった専門的知識と技術が必要になることもあることから、役割の担い手としては理学療法士が適任です。
原始反射が残存し、例えば寝返りから立位へと発達的変化を促すとき、そこでの運動パターンを実際に評価したうえで、正しい運動パターンを身につけさせる必要があります。
呼吸について
脳性麻痺や筋ジストロフィーなどでは、呼吸が問題になることもあります。
脳障害があれば、胸郭や脊柱の緊張バランスの不均衡や、呼吸パターンの異常が問題になるケースがあります。筋ジストロフィーでは、筋力低下による呼吸不全が生じますので、胸郭の運動性が重要になります。
近年、理学療法士の間にも『呼吸リハビリテーション』という言葉が浸透してきました。 呼吸の基礎知識や、スクイージング、バイブレーション、ハッフィング、タッピング等の技術的なスキルを学ぶ研修会も増えてきています。
二次障害の問題
特に、痙直型の脳性麻痺などでは、二次障害は大きな問題になります。
脳性麻痺のリハビリ治療で重要な【二次障害】変形の理解について
二次障害による四肢体幹の変形は、不可逆的であり、一度起きてしまえばリハビリで治るものではありません。
脊柱の側弯を例にすると、車いすなどでの坐位姿勢でのポジショニングや脊柱起立筋群の左右の緊張バランス不均衡などにより進行します。この予防のためには、毎日のポジショニングの確認はもちろん、家庭での指導や定期的なストレッチングが重要になります。
理学療法士による日々の介入は必要不可欠
ここまで見てきたように、特別支援学校に通う子ども達への介入は、専門的観点からの支援が必要不可欠です。
それは国も十分理解しているようで、文部科学省による2003年の「今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)」の中では、障害のある児童の多様な教育ニーズに応じた指導を行うために、理学療法士や作業療法士などの専門家の活用が必要であると指摘しています。
「今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)のポイント」の中の、現状認識という項目には、次のようにあります。
- 特殊教育諸学校(盲・聾・養護学校)若しくは特殊学級に在籍する又は通級による指導を受ける児童生徒の比率は近年増加しており、義務教育段階に占める比率は平成5年度0.965%、平成14年度1.477%となっている(平成2年度より減少傾向から増加傾向に転換)。
- 重度・重複障害のある児童生徒が増加するとともに、LD、ADHD等通常の学級等において指導が行われている児童生徒への対応も課題になるなど、障害のある児童生徒の教育について対象児童生徒数の量的な拡大傾向、対象となる障害種の多様化による質的な複雑化も進行。
- 特殊教育教諭免許状保有率が特殊教育諸学校の教員の半数程度であるなど専門性が不十分な状況。また、専門性の向上のためには、個々の教員の専門性の確保はもちろん障害の多様化の実態に対応して幅広い分野の専門家の活用や関連部局間及び機関間の連携が不可欠。
- 教育の方法論として、障害のある児童生徒一人一人の教育的ニーズを専門家や保護者の意見を基に正確に把握して、自立や社会参加を支援するという考え方への転換が求められている。
近年の厳しい財政事情等を踏まえ、既存の人的・物的資源の配分について見直しを行いつつ、また、地方分権にも十分配慮して、新たな体制・システムの構築を図ることが必要。
引用:文部科学省「今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)のポイント」
特別支援学校でのリハビリの実際
特別支援学校に通う子ども達の親御さんと話をしていると、次のような意見を耳にします。
「学校では自立活動はあるけれど、専門的な理学療法士によるリハビリも定期的に受けられたらいいのに。」
「体の変形が強くなってきた。手術を将来受けることにならないか心配。」
自立活動とは
文部科学省による特別支援学校の学習指導要綱(抜粋)の中では、自立活動について次のようにあります。
自立活動の指導は、個々の幼児児童生徒が自立を目指し、障害による学習上又は生活上の困難を主体的に改善・克服しようとする取組を促す教育活動であり、個々の幼児児童生徒の障害の状態や発達の段階等に即して指導を行うことが基本である。
引用:文部科学省「特別支援学校学習指導要領解説」
またこの中では、医師をはじめ、理学療法士等の専門家との連携協力を図ることで、特別支援教育の充実と改善を図ることを推奨しています。
特別支援学校への理学療法士による実際の関わり
特別支援学校では、校内研修会の講師として理学療法士が関わることがあります。僕の同僚は講師として研修を行ったことがありますが、その内容は次のようなものでした。
- 病気や障害の理解
- 身体的な介助法や指導法
講師以外にも、実際に理学療法士が特別支援学校の教員として働く方法もあります。その方法は、大きく分けて次の2つの手段があります。
都道府県が授与する免許ですが、自立活動教諭として理学療法士を採用するケースは少ない。
理学療法士の免許を取得していることで免除される科目もある。
教員資格認定試験については、文部科学省:教員資格認定試験を参照。
校内専門家としてはまだ少ない
全国的には、理学療法士を校内における専門家として採用しているケースは多くないようです。大半は、外部専門家として活用しているケースです。
これは、採用する側の問題なのか、特別支援学校教諭を志す理学療法士が少ないのかという問題なのかということになります。僕が調べた範囲で言えば、教員採用の枠はかなり狭い印象があります。
しかしその中でも、神奈川県などでは積極的に校内専門家としての理学療法士を導入していることなどから、都道府県によって差があるように感じます。
肢体不自由の障害へのリハビリは継続的・長期的・直接的な介入が不可欠
特別支援学校に通う、肢体不自由の障害を持つ子ども達への介入は、少なくとも小学校入学から中学校卒業の12年間はきっちりと行うべきです。
先ほど述べたように、子どものリハビリは、「身体の成長」を踏まえて行う必要があるので、成長が著しい時期が重要です。ここでリハビリが不足すれば、二次障害は悪化の一途を辿ります。
そして、直接的な介入が必要です。どうも国の方針においては、この部分の意識が欠如しているように僕は感じています。
確かに理学療法士が学校側や保護者に『関与』することで得られるメリットはあるでしょう。ポジショニングの指導や、運動方法を教えられるかもしれません。
しかし、とりわけ脳性麻痺などにみられるような関節拘縮や変形を予防するためには、『関与』するだけでは絶対に足りないのです。
どこの組織がどのような影響で拘縮しているのかを見極め、運動学的・解剖学的・生理学的に改善させていく技術がなければ、予防はできません。『直接』触らなければそれは達成されないのです。理学療法士の思考過程や技術を簡単に教えることなど不可能なのです。
悠長にしていれば、学童期にどんどん拘縮や変形が進んでいく子どもがいると思うと、とてもやりきれない気持ちになります。実際の子どもの親御さんなどは、僕の気持ちの比ではないでしょう。
まとめ
特別支援学校での理学療法士の必要性について、国や社会は理解している現実があります。
しかし、どのような形で必要なのかまでは、理解できていないといった印象です。それもそのはず、理学療法士は何ができるかということは、当の理学療法士にしか分からない部分もあるでしょう。
まずは理学療法士を全ての特別支援学校に配置することが先決だと思います。そうすることで、きっと行政等の会議などの場では見えてこなかった新しい視点で、問題点と改善案が浮かび上がるのではないかと考えています。
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