近年、ストレッチに関する書籍がベストセラーになることが多くなってきています。
それだけ、ストレッチは『健康』や『美』の指標として注目されていることが分かります。
ストレッチを効果的に行うには、その目的を正しく持つことや、筋肉・神経の生理的作用を理解することが重要です。
ここでは、ストレッチの役割や効果、その種類についてご紹介します。
目次
ストレッチの基礎
ストレッチの目的
ストレッチを行う目的は、大きく分けて以下の通りです。
- 軟部組織(筋肉・腱・靭帯・関節包・皮膚)の柔軟性の改善
- 血液循環を改善させる
- 神経-筋の働きをスムーズにし、運動パフォーマンスを上げる
- 心身のリラクゼーション作用
ストレッチはこのようにいくつかの作用があるわけですが、“ストレッチング”が“伸長法”と訳すことができるこを考えても、やはりその目的は柔軟性の改善が中心になります。
関節の柔軟性
何が硬いのか?
関節の硬さには、いくつかの原因があります。ストレッチするにも、何を伸ばしているのかを意識して行うかどうかで、その結果も変わってくるでしょう。
具体的に、どの軟部組織がどのくらい関節の硬さに起因しているかということを、以下に示します。
- 筋肉・筋膜:約4割
- 腱・靭帯・関節包:約4~5割
- その他(皮膚など):約1~2割
2・3の数値は書籍によって多少異なりますが、1の筋肉に関するものによる影響は大体4割というものが多いようです。
これを見ると、関節の硬さにはやはり筋肉の硬さも大きく影響しているのが分かります。
筋張力
筋肉は、重力に抗したり、体の形状を保つ目的で、何もしていなくてもある程度の張力を保っています。 その長さを静止長と言います。
さらに、そこから伸ばされていくことで、ゴムがもとに戻ろうとするような力が働きます。これが静止張力と言います。
一般的には、関節を最終域まで動かそうとすれば、関節包や靭帯が伸長する前に筋肉の静止張力が増していくことでストップがかかります。
それでも耐えられない場合に、関節包や靭帯は最終的なストッパーとして働くことになります。
関節の柔軟性改善には、筋肉のストレッチが基本
ここまで見てきたように、筋肉のストレッチは、他組織の柔軟性改善に先立って必要となることが分かります。
例え関節包や靭帯の硬さを改善させようとしても、筋肉が硬い状態であれば効果は出ません。先に筋肉が突っ張ってきて、うまく伸ばせないからです。
筋肉のストレッチであれば、工夫次第で誰にでもできます。セルフケアをしっかりと行うことで、ケガや病気のいくらかは予防・改善ができます。
ストレッチが有効な手段である理由
関節トラブルの種類
ヒトの体に起きる様々な不調の中でも、関節における不具合の原因は次の2点に大別できます。
- 関節が緩くなる
- 関節が硬くなる
このような異常は、関節を動かす際の回転軸のブレにつながります。そして最終的には炎症を引き起こしたり、関節変形が起きたりすることがあります。
また、一つの関節の異常は別の関節へも影響を与えます。そのような連鎖が起きることで、体の構造バランスが変化することで、中長期的に見れば体全体にも影響が出ることになります。
緩い関節を安定させるのは大変
関節が緩くなったものを改善させるためには、筋力トレーニングやテーピング、サポーターなどの装具によって、その安定化を図ります。しかし、緩いものを安定させるのは容易ではありません。
例えば、膝の前十字靭帯損傷などで関節が不安定になった場合などでは、手術が必要になることが多々あります。
これは、筋力トレーニングなどではその安定性を補いきれないことが理由となります。
硬い関節を柔らかくする方が容易
一方で、関節が硬くなったものを柔らかくするためには、主にストレッチを用いるわけですが、硬いものを柔らかくするのは比較的可能なことが多いです。
我々理学療法士が最も患者さんに貢献できることの一つとして、このような硬さを取り除くことが挙げられます。
さらに先ほど述べたように、ストレッチはセルフケアでも行うことが十分に可能です。異常が起きる前のケアは、何よりも重要なものです。
このように、ストレッチは単に“健康”や“美”のためというよりも、“関節異常の改善”のための要素であるということです。
ストレッチで筋肉が伸びる仕組み
筋節(サルコメア)について
筋肉は、筋原線維という最小単位のユニットを無数に束ねたものです。
筋原線維の中は、アクチンとミオシンというフィラメントで成り立っています。
これは、Z帯という仕切りで区分けされており、その1区画を『筋節(サルコメア)』と呼びます。
筋節が増えることで柔軟性は向上する
ストレッチによって筋肉が伸びる仕組みは、次の2段階で説明ができます。
- 筋節が伸びる
- 筋節が増える
まず、ストレッチでは、アクチンとミオシンが互いに引き離されることによって筋節が伸びるということが起きます。
このように、筋節を伸ばすことを繰り返すことで、徐々に筋節自体が増えていきます。
筋節が増えれば、それだけ柔軟性は向上したと言えます。
このような流れで、筋肉は伸びやすくなっていきます。
筋肉の短縮とは
筋肉の短縮はアクチンとミオシンがストレッチとは逆方向にスライドすることで、筋節が短くなることです。
その状態で長期間動かさないでいると、筋節自体が消失してしまうことすらあります。
ちなみに、筋肉の“短縮”に似た言葉で、“攣縮”や“拘縮”というものもありますので、間違えないように注意してください。


筋肉外でのストレッチの効果
筋膜の存在
関節の硬さに起因するものとして、筋肉と筋膜に関するものが約4割あることを前述しました。
筋膜は筋肉を包み込んでいるために、筋肉の上には筋膜(深筋膜)が存在していると言えます。さらに、その上には皮下脂肪が存在しており、皮下脂肪の中にも筋膜(浅筋膜)が存在しています。
下の図は、大腿部のある部位を輪切りにしたところです。
ここでは全ての線を引いていませんが、深筋膜は全ての筋を包んでおります。また、浅筋膜は大腿部の全周を覆っています。
これらの筋膜の動きの制限も、関節の可動制限につながります。
筋肉と筋肉の間の動き
人間の体を輪切り状に見ると、複数の筋肉が同一部位に存在しています。そのような複数の筋肉は、骨や筋膜、筋間中隔などで囲まれた区画に分かれており、その区画をコンパートメントと言います。
コンパートメント内で、筋肉同士が上手くお互いに滑走できなくなると、これも関節の動きの制限につながります。
実際には、筋肉同士の間には先ほどの深筋膜が存在していますので、その動きを改善させなければいけないということです。その改善のために、ストレッチは有効な手段です。
ストレッチ以外にも、筋膜リリースという手法も用いられます。
筋肉と皮下組織の動き
筋肉と皮下組織の動きも、ストレッチで改善できる部分です。その動きが障害されても、関節の硬さが生じることがあります。
皮膚と筋肉の間には、皮下脂肪や浅筋膜が存在しています。
場合によっては、滑液包という組織間の動きを滑らかにするための袋も存在します。
それら各々の動きを良くすることも、ストレッチで可能です。しかし、ストレッチもいくつかの種類があり、その用途に応じた方法を選択する必要があります。
ストレッチの注意点
しかし、何でも伸ばせば良いということではなく、筋肉にはある程度の張力が必要です。その自然な張力のおかげで、人間は坐位や立位などを最小限の筋活動でまかなっていられるのです。
例えば、ハムストリングス(大腿後面の筋肉)を伸ばし過ぎると、腰背部の筋肉は姿勢を保持するために過剰に働くことになり、腰痛の原因となることもあります。
よってストレッチは、あくまでも短縮した筋肉に対してのみ実施するべきものです。
ストレッチの種類
ストレッチには、いくつかの方法があります。
ざっと思いつくものを以下に記載します。
スタティックストレッチ(static strech)

ダイナミックストレッチ(dynamic strech)

ダイレクトストレッチ(direct strech)
PNFストレッチ(proprioceptive neuromuscular facilitation strech)
クイックストレッチ(quick strech)
まとめ
ストレッチには、正しい知識が必要不可欠です。
つまり、解剖学・生理学・運動学に裏打ちされた視点がなければ、良かれと思って実施したストレッチが逆効果になることがあります。