理学療法士の学生はトップダウン評価とボトムアップ評価どちらが良いのか

良く議論されるところではあるのですが、理学療法士の学生が実習を行う際に、トップダウンで評価を行う方が良いのか、ボトムアップでの評価が良いのかということです。

結論を言います。どっちもうまくいきません

実践してみるとそれは分かります。しかし、なぜこうも学生にどちらかを強要するようなシステムがあるのか正直理解しがたい部分があります。

トップダウン評価がうまくいかない理由

トップダウンでの評価というのは、最初に問題の仮説を立てることです。

仮説を立てるために必要な要素は、

  • 問診
  • レントゲン、MRI、CTといった画像読影
  • 他部門情報
  • 動作観察、動作分析

こういった介入初期の段階で問題点を推察することです。メリットは、治療までの時間をぐっと時短できるということです。治療を行って思ったような結果がでなければ、また仮説に戻って治療を行うといったサイクルを繰り返します。

よく考えてみて下さい。

 

学生にはどうみても困難です

 

トップダウン評価を行うには、必須な条件があります。それは、経験を通して構築されたパターン(傾向)のデータです。

要するに、「仮説」と「検証」をひたすら繰り返すことによって、理学療法士は症状のパターン(傾向)を見つけていきます。訴えや、動作の傾向的特徴は、何百の症例を通してひたむきに接してきた人間だけに得られるものです。もちろんそういったデータを凝縮された媒体である『文献』を参考にすることも可能ではありますが、生身の人間相手に対して、最初から当てはめパズルをやってもうまくいきません。

 

ただ、ここまで言っておいて何なのですが、トップダウン評価にトライすることは非常に良いことだと考えています。実際には学生にはできませんが、トップダウン評価に挑戦することによって、どのような考え方を持つ必要があるのか、今後どうやって考えていけばよいのかを先に理解することができます。ただ、それを持ってレポートを書くことは無理なので、レポート対象の担当患者さんで行うのは止めた方が良いということです。

 

これをスポーツに例えると、スポーツ初心者にいきなり試合で結果を期待するのは酷ですが、どのような練習をこれからやった方が良いのかを理解させるためには、試合を経験することは悪くないのではないかということです。

ボトムアップ評価がうまくいかない理由

ボトムアップ評価というのは、疾患から考えられる検査を全て実施するということです。そして、その検査結果から得られた情報を組み合わせて問題点を見つけるといった過程です。全ての検査を行うので、結果的に無駄となる検査が出てくることで、デメリットとして時間がかかります。一見無難で、学生にも適した方法のような印象がありますが、実際に学生にやってみてもらうと、これもうまくいきません。

もちろん検査は一通りできます。検査項目はある程度決まっており、それほど悩む部分ではありません。例えば、大腿骨頸部骨折術後の評価であれば、

  • 問診
  • レントゲン、MRI、CTといった画像読影
  • 他部門情報(術式も)
  • 動作観察、動作分析

といった先ほどのトップダウン評価に加えて、

  • 意識レベル
  • バイタルサイン
  • ROM検査
  • MMT検査
  • 感覚検査
  • 整形外科的テスト
  • 痛みの検査
  • 炎症の有無と程度
  • バランス評価
  • 認知機能検査
  • ADL評価  など

こういった検査を行った後に問題点を考えていくわけですが、結果として多くの学生が出してくる問題点は、これらの検査結果がしっかりと反映されたものではなく、どこかのテキストからひっぱってきた問題点であったりします。

それもそのはずです。情報量が膨大すぎるのです

トップダウン評価よりは現実的な方法ではありますが、こららの検査から出てきた情報それぞれを絡めて、基礎である「解剖学」「運動学」「生理学」の観点から一つの問題点を導き出すのは容易なことではありません。検査結果の情報量も膨大ですが、それを処理していくための基礎情報も膨大であり、それをうまくまとめていくというのは、相当勉強を積んできたセンスのある学生にしかできません。

 

ここまで、トップダウン評価とボトムアップ評価の問題点を見てきましたが、それではどうすればいいのでしょうか。

両方向から評価を行う

解決策として、トップダウンとボトムアップの両方向から評価を行います。

まずはトップダウンから

まず、トップダウンに必要な検査項目を集めた上で、問題として考えられるものを全てピックアップします。

合っていても間違っていても構わないので、量が必要です。僕自身は、最低でも5つ程度の仮説を立ててもらいます。分からなければ、スーパーバイザーやケースバイザーが提示しても良いと考えています。

次にボトムアップを行う

次に、考えられる検査を全て行います。検査項目自体は、疾患ごとにある程度やるべきことが想像つきやすいわけで、ボトムアップの段階で行き詰ることはそうそう無いと思います。

検査手技の正確性なども課題はあるかもしれませんが、やる気があれば誰でもできます。

2つの側面を統合する

検査結果と、最初にピックアップしたいくつかの仮説を照らし合わせて、マッチする可能性のあるものを選びます。逆に、矛盾が多く見られるものは排除していきます。

マッチするものであっても、完璧に当てはまるものは最初からないでしょう。そこで、両方向から足りない部分を補正していきます。最初の仮説が足りなければ、もっといろいろと調べて、より適合する問題点をトップダウン方向から探ります。検査が足りなければ、再度検査項目を選別してボトムアップ方向から探ります。

このようにして、それぞれを照らし合わせながら統合していくのです。

 

例を出します。

先ほどの大腿骨頸部骨折術後の評価をするとしましょう。

患者さんの主訴は、「歩くと鼠径部が痛い」と仮定します。

そして、問診や動作分析などから、機能障害としての問題点をトップダウンにて次のように仮説を立てました。

  • トレンデレンブルグ歩行による股関節内転筋群の負担増大によるもの
  • 腰部からの神経根症状
  • 仙腸関節のトラブル
  • 大腿神経痛
  • 股関節前方の圧迫ストレス

そして、ボトムアップとして各検査項目を行った結果、次のようになったとします。

  • 中殿筋筋力低下著明
  • 恥骨筋・腸腰筋の攣縮(+)
  • 炎症なし
  • 感覚異常なし
  • 腰部整形外科的テスト陰性

これである程度しぼりこめます。仮定として内容は適当に書いたので突っ込まないで下さい。

そしてここでは、「神経根由来ではなさそうだな」「仙腸関節も可能性低い」「中殿筋の筋力低下が恥骨筋への負担増大につながっているのだろうか」「腸腰筋と大腿神経の関係に、何らかの関連があるかもしれない」などといったことが新たに分かったとします。そこから、上記の仮説項目をを減らし(または追加し)、検査項目を追加していくといった、両方向からのすり合わせを行っていきます。

まとめ

あくまでも僕の考えではありますが、このように、両方向からのアプローチはとても学生向きであり、進めやすいものと感じます。少なくとも、行き詰ってしまうことは少なくなるでしょう。少しでもみなさんの参考になれば幸いです。