肩インピンジメント・結滞動作制限の改善に必要な【肩峰下滑液包】の理解

整形外科におけるリハビリでは、肩関節の可動域改善に難渋することも少なくありません。

学生の内は、回旋筋腱板を中心とする筋肉に目が行きがちになりますが、筋肉の短縮や攣縮だけでは説明がつかないような問題も臨床では多々あります。

ここでは、肩関節の可動域制限や痛みの原因になりうる【肩峰下滑液包】について知り、どのように臨床に活かしていくということについて考えてみたいと思います。

肩峰下滑液包とは?

肩峰下滑液包は、英語ではSubacromial bursa(以下SAB)であり、肩関節疾患において、医師のカルテ上には頻繁に出現する言葉です。

肩峰下滑液包は、人体最大の滑液包であり、棘上筋や棘下筋腱を肩峰下面部分から保護する役割として知られています。肩峰下滑液包は烏口肩峰アーチの深層に大きく広がっています。上のイラストでも分かるように、肩峰下に存在するものを肩峰下包(肩峰下滑液包)、三角筋下に存在するものを三角筋下包(三角筋下滑液包=SDB)とも呼びます。

重要なことは、肩峰下滑液包には、疼痛を感知する受容器である自由神経終末が豊富に存在することです。

そのため、第2肩関節(烏口肩峰アーチと大結節における機能的関節)において、肩峰下滑液包とその直上を通過する棘上筋や棘下筋のトラブルは、肩の痛みにとって重要な項目と言えるわけです。

肩関節周囲炎や腱板炎などでは、肩峰下滑液包の炎症は多く見られます。そのため、肩峰下滑液包の炎症後の機能低下により、どのような影響があるかを理解する必要があります。

下のMRI画像は、肩峰下滑液包の炎症像です。

円滑な肩挙上動作にとって必要な肩峰下滑液包

肩を挙上していくと、大結節は烏口肩峰アーチの下をくぐり抜ける必要があります。大結節がうまく肩峰下をくぐり抜けるためには、以下の2つの要素が必要になります。

  1. 上腕骨頭の求心性を高める
  2. 腱板筋の滑り効率を高める。

1:上腕骨頭の求心性を高める

肩挙上に際しては、上腕骨頭を関節窩に押し付けることで、関節の回転軸が極端にブレないようにする必要があります。

求心性についてはこちらの記事をご参照下さい。

リハビリで絶対に押さえておきたい肩関節の特徴3選

しかし、いかに求心性を高めたとしても、肩挙上に伴って上腕骨頭は多少は上方変位を生じます。

その上方変位した際に、クッション材の役割をしてくれるのが肩峰下滑液包です。

過度の上方変位は、肩峰下滑液包に過剰な負荷をかけることになり、肩峰下インピンジメントにつながります。よって、求心性の低下は肩峰下滑液包への負荷増大を招く恐れがあるので注意が必要です。

2:腱板筋の滑り効率を高める

人体に存在する滑液包の役割の一つとして、組織間の摩擦係数を減らすという目的があります。肩峰下滑液包も同様に、主に棘上筋と烏口肩峰アーチの間に存在することで、両者の摩擦を減らし、滑り効率を高めるのに役に立っています。

逆に言えば、炎症による肩峰下滑液包の癒着や、周囲組織との滑動性低下により、可動域は顕著に制限される可能性があると言えます。

肩峰下滑液包から考える結滞動作制限

ここで、肩峰下滑液包から最も影響を受ける棘上筋について考えてみましょう。

棘上筋は、肩甲骨棘上窩から起始し、上腕骨大結節へ停止します。先ほど述べたように、棘上筋の上面には肩峰下滑液包が存在します。棘上筋腱が肩峰下滑液包と癒着ないしは滑動制限を生じることで、棘上筋の遠位への伸長性は制限され、結滞動作制限を起こします。

これは、肩関節を上方から見た写真です。

黄色のバンドが棘上筋と考えて下さい。肩峰下にガムテープを丸めて設置しました。ガムテープが、癒着もしくは滑動制限を引き起こした肩峰下滑液包だと考えて下さい。

この状態で肩を内転しようとしても、ガムテープ(肩峰下滑液包)が邪魔で制限が生じるのが分かると思います。これでは結滞動作は制限されてしまいます。

その改善のための運動療法を考えてみましょう。

肩峰下滑液包と棘上筋後方の動きを引き出す

下の写真を見て下さい。

ちょっと分かりにくいかもしれませんが、肩関節の内旋+伸展動作を行っています。こうすることで、棘上筋の特に後方部分は引き延ばされます。それにより、肩峰下滑液包と棘上筋後方部分との間の動きが生まれます。

実際の運動療法では、以下のように、タオルを用いて実施しても良いかと思います。


手順は以下の通りです。

  1. しっかりと胸を張った状態で、肩甲帯が屈曲しないように注意します。
  2. 肩を内旋+伸展させタオルを握ります。
  3. そこから痛みが生じない範囲で肩を伸展させます。
  4. もしくは、反対の手でタオルを引っ張り、さらに内転へ誘導します。

肩峰下滑液包と棘上筋前方の動きを引き出す

もう一つの方法を見てみましょう。今のは、棘上筋の後方部分と肩峰下滑液包との動きを引き出す運動でした。

次は、棘上筋の前方部分と肩峰下滑液包の動きを引き出す運動です。

ここでは、肩関節の外旋+伸展動作を行います。(画像では伸展が不十分ですが、ご容赦下さい)

このような操作によって、棘上筋前方部分は引き延ばされます。それにより、肩峰下滑液包と棘上筋前方部分との間の動きが生まれます。

これも、タオルを用いて実施してみましょう。

手順は以下の通りです。

  1. 先ほど同様に、肩甲帯屈曲しないように胸を張ります。
  2. 肩を外旋+伸展させタオルを握ります。
  3. 痛みが生じない範囲で肩を伸展させます。
  4. もしくは、反対の手でタオルを引っ張り、さらに内転へ誘導します。

どちらから始めるか

  1. 肩を内旋して棘上筋後方と肩峰下滑液包の動きを出す
  2. 肩を外旋して棘上筋前方と肩峰下滑液包の動きを出す

この両者の内、どちらから始めると良いかという問題があります。

肩前方には、烏口上腕靭帯や、関節上腕靭帯が張っています。これは、関節窩が前方を向いていることで、肩は前方脱臼しやすい形状をしていることから、それを抑止する目的があるのでしょう。また、棘上筋は前方に繊維が多く付着しています。

これらのことから、肩外旋はより制限が強くなっている傾向があります。どちらから運動を始めれば良いかはケースバイケースでしょうが、僕としては肩内旋位でのタオルエクササイズから患者さんに指導した方が、痛みが少なく導入しやすい傾向にあるのではないかと考えています。

まとめ

肩峰下滑液包と棘上筋の関係を理解した運動療法を展開することで、肩の様々な問題に対処することができる場合があります。

しかし、あまりにも肩峰下滑液包の癒着やその部位での痛みが激しい場合は、医師と相談しながら進める必要があります。重要なのは、炎症と痛みのコントロールをしながら、その範囲内で運動療法を進めるということです。

肩の拘縮にはいろいろなパターンがありますので、肩峰下滑液包の動態による問題も一つの因子として捉え、拘縮の原因を個別に理解した上でのアプローチが効果的と言えるでしょう。