肩甲下筋(けんこうかきん)の起始停止・神経支配・作用とリハビリ応用について

肩甲下筋についての基本的な情報はこちらです。

起始:肩甲骨の肩甲下窩

停止:上腕骨小結節

神経支配:肩甲下神経(C5,C6)

肩関節への作用:内旋

さらに肩甲下筋について詳しく知る場合には、以下の目次より進んで下さい。

英語表記

肩甲下筋の英語表記は、以下の通りです。

Subscapularis

略して、SSCとも呼びます。

肩甲下筋の概要

肩甲下筋は肩関節の内旋に働きますが、肩の内旋作用を持つ筋肉は、他にも大胸筋や大円筋、広背筋といったものがあります。

その中でも、肩甲下筋は回旋筋腱板の構成筋として、肩関節の安定性に作用する特徴があります。

骨頭前方安定性に関与する

肩関節(肩甲上腕関節)は、もともと適合性に優れた関節ではなく、骨頭の安定性が求められる構造をしています。

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その中でも今回注目すべき構造は、関節窩が前額面に対して前方約35°の方向を向いていることです。関節構造だけで言えば、肩は外力に対して、前方へ脱臼しやすい形をしているわけです。

そのためのストッパーとして、肩甲下筋は重要な役割があります。

次の図を見て下さい。

外力が加わった際に、骨性のストッパーが足りない部分を肩甲下筋が補うのが分かります。肩甲下筋が働くことで、外力肩甲下筋の筋力のベクトルが合成され、関節窩へ押し付ける力へと変換されます。

運動軸に対する機能

肩甲下筋の筋束は、肩甲下窩(起始部)ではいくつかに分かれていますが、小結節(停止部)に向かうにつれて収束していきます。

それを大きく分けると、肩関節の運動軸を境に上部と下部に分けることができます。

肩関節外転位では、肩甲下筋の下部が働きやすい傾向があります。これは、肩を外転させるに従って、肩甲下筋の下部筋束が直線状に整うために、働きやすくなるからです。下の図を参考にしてください。

触診

肩甲下筋の触診では、起始部が肩甲骨の前面であるという特徴から、胸郭に覆われており触知はとても困難です。さらに、停止部付近では大胸筋が表層にあるため、そちらでも触知は容易ではありません。

ここでは、リフトオフテストの応用として肩甲下筋を触知する方法をご紹介します。

リフトオフテストは、手背を背中につけた状態から後方へ持ち上げることができるかどうかを見るものであり、肩甲下筋の筋力低下を評価できます。テスト方法は動画で見ていただいた方が分かると思います。

この応用として、触診を行います。

腋窩部に指を入れ、大胸筋をつかむような要領で手を置きます。ここから、青色の矢印の方向へ、さらに腋窩深部へと指を差し込みます。手背を背中から離すときに、赤色の矢印の方向へ抵抗を加えます。すると、腋窩最深部で指の先端を押し下げるように硬くなる肩甲下筋を触れることができます。しかし、広背筋や大円筋と間違えやすかったりするので、とても難しいです。

ここまでして肩甲下筋を触る意義があるかどうかと言われると、何とも言えないところがありますね。

リハビリへの応用

前方不安定性の改善

リハビリで肩甲下筋が重要となるのは、なんといっても肩関節の脱臼に関することでしょう。

肩関節の脱臼は、外転・外旋位で起きやすい傾向にあります。これを利用したものにアプリヘンションテストがありますよね。

先ほど見たように、肩の外転位では、肩甲下筋下部が優位に働きます。それを考えると、脱臼予防や脱臼後の前方不安定性の改善には、この外転・外旋位からの内旋動作を用いることで肩甲下筋下部のトレーニングを行っていくことが効果的であると言えます。

肩甲胸郭関節の調整

肩甲下筋が働くことで、外力に対して確かに前方の安定性は改善します。しかし、肩甲下筋が効果的に働くことのできる環境が整っているかを評価することも重要です。

そのためには、肩甲胸郭関節のアライメントが重要となります。

具体的には、肩甲骨外転位(背中が丸まって、肩が前にいっているような姿勢)の是正が重要です。この姿勢では、骨頭の相対的位置関係は前方に変位し、肩甲下筋を含めて肩前方組織は短縮位になりやすい傾向があります。

それでは、前方不安定性は増大し、肩甲下筋の筋出力も低下します。

その改善のために、肩甲骨を内転させ(胸を張るような動作)、骨頭と肩甲骨の位置関係を良好に保つとともに、肩甲下筋が筋力を発揮しやすいアライメントに整えていきます。

まとめ

肩甲下筋は、肩の内旋作用があるだけでなく、肩前方安定性に大きな影響を与える筋肉です。

そのためには、肩の肢位を考慮したトレーニング方法だったり、肩甲胸郭関節の調整まで踏まえてリハビリを行うことが効果的です。