みなさんは『腫脹』と『浮腫』、これらの言葉の使い分けについて適切に説明できますか?
この両者は、全くの別物ですので、医療職者であればぜひとも理解しておきたいところです。
しかし、この両者の言葉の持つ概念自体が、それぞれ広範囲をカバーするものであることから、とても分かりにくいというのが正直な所です。
ここでは、その違いをご紹介したいと思います。
目次
腫脹と浮腫の違い
分かりやすくするために、表にまとめました。
原因 | 状態 | 腫れの中身 | |
腫脹 | 主に炎症 | 血管透過性亢進 | 滲出液 (血漿成分) |
浮腫 | 心臓・腎臓・肝臓・ リンパなどの機能障害 | 水分循環障害 | 間質液 |
端的に両者の違いを分けると、このような形となります。
次に、それぞれについて説明させていただきます。
原因による違い
腫脹の原因
腫脹と浮腫が決定的に違うところが原因です。
腫脹は、炎症の5徴候の1つです。簡単に言ってしまえば、炎症が起きることで腫脹は生じ、炎症が治れば腫脹も治ります。

浮腫の原因
浮腫には、全身性浮腫と局所性浮腫に分類され、それぞれの原因には、心臓や腎臓、肝臓、リンパなど様々な機能障害があります。

これだけでも両者の違いを説明するには十分なのですが、もう少し詳しく見ていきましょう。
状態の違い
腫脹では何が起きているのか
腫脹の場合には、血管透過性の亢進が起きています。
これは、炎症によりヒスタミンやブラジキニンなどの化学物質が、血管内皮細胞を収縮させることで、毛細血管の壁が開くからです。それにより、血漿中のタンパク質であるアルブミンが血管壁を通過していきます。
アルブミンは水を引きつける作用(膠質浸透圧)があるために、アルブミンが血管外に出ることで、そこに腫れが起きます。
浮腫では何が起きているのか
浮腫は、水分の循環障害です。
以下の模式図をご覧ください。こちらは、水分が動脈から間質(細胞と細胞の間)へ移動し、その後、静脈やリンパ管に流れていく様子を表しています。
水分の循環障害としては、上記の三ヶ所どこで障害が起きても間質に水が貯まります。要するに浮腫が起きます。
➀動脈でのトラブル
➀では、動脈側の問題です。動脈の血液中におけるアルブミン濃度が下がることで、膠質浸透圧が低下します。膠質浸透圧が下がることで、血管内に水分を引きつける力が弱まることになります。
すると、動脈側の蛇口からの水の勢いが増すため、間質に水が貯まり、浮腫が生じます。
➁静脈でのトラブル
➁では、静脈側の問題です。心不全などでは、静脈還流量が減少し、静脈側で毛細血管内圧が上昇します。
すると、水分が静脈に入っていかなくなるために、静脈側の蛇口の勢いは弱まります。すると、やはり間質に水が貯まり、浮腫が生じます。
➂リンパ管でのトラブル
➂は、リンパ管での問題です。がんの治療手術などでは、リンパ節を取り除いたり放射線治療によってリンパ管が狭窄したり圧迫されたりします。これでもやはり、リンパの流れが悪くなることで間質に水が貯まり、浮腫が起きます。
腫れの中身
確かに腫脹も浮腫も、その字のごとく、『腫れ』が見られます。しかし、何が『腫れ』の中身なのかということも違いがあります。
成人の体の60パーセントは水分なわけですが、そこにある水分は『細胞内液』と『細胞外液』に分けられます。
さらに細胞外液は、「血漿」と「間質液」に分けられます。
腫脹における『腫れ』の中身
腫脹で貯留するものは、血漿成分です。血漿とは、血液中の血球を除いた液体成分のことです。要するに、腫脹とは血液中のタンパク質が外に漏れて貯まることで起きると言えます。
このように、血管透過性の亢進に伴い、普通は外に漏れ出ることのない血漿成分が出てしまっているものを、滲出液と呼びます。
浮腫における『腫れ』の中身
浮腫で貯留するものは、間質液です。間質液とは、毛細血管内から滲み出た水分が細胞間の隙間に流れていったものです。
腫脹とは違い、アルブミンなどの血漿成分が漏れるのではなく、水分だけが移動します。毛細血管の壁は、水分や小さなイオンは自由に通過できますが、血漿成分は炎症が起きなければ、普通は通過できないからです。
まとめ
腫脹と浮腫は、見た目には同じ『腫れ』ですが、その原因や機序が異なります。
当然のごとく対応にも違いが出ますので、どちらの『腫れ』なのかを鑑別することは重要なことです。