「装着するだけで筋トレ効果があります!」
こんなキャッチフレーズを、通販番組などで聞いたことがある方は大勢いらっしゃるでしょう。
「EMSトレーニングによる効果」などと謳われているもの多くありますが、そもそもEMSとは何なのでしょうか?そして、それは本当に意味があるのでしょうか?
電気刺激を用いた治療はいくつもの効果があると言われてます。
その中でも、ここでは筋力強化への効果と、そのメカニズムをご紹介していきます。
目次
電気刺激療法の世界
電気刺激療法の歴史
電気刺激療法とは、人間の生体に電流を流すことで何らかの効果を得ようとするものであり、古くは紀元前から痛みや麻痺の治療に用いられてきました。
1780年に、Galvaniにより、カエルの脚の筋肉が電気により収縮することが発見されました。そこから現代に至るまで、電気刺激による治療の理論・技術は目覚ましい発展を遂げています。
特に、第二次世界大戦以降になると、低周波電気刺激装置の進歩により、患者に痛みや苦痛を与えることなしに、電気刺激によって効果的に目的とする麻痺筋を収縮させることが可能になりました。
EMSとは?
EMS=Electrical Muscle Stimulation
直訳すれば、『電気筋刺激』であり筋収縮を生成するために筋に直接電流を適応することです。もうすこし具体的な言葉で表現すれば、『神経筋電気刺激療法』となります。
要するに、電気を使用したアプローチ全体を包括した概念です。
それを目的別に分けるとすると、次の2つとなります。
EMSの分類
TES:治療的電気刺激
FES:機能的電気刺激
この中でも、今回のテーマである、電気刺激による筋トレ効果についてはTESが主体ですので、それについて詳しく見ていきたいと思います。
ちなみに、FESとはFunctional electrical stimulationであり、麻痺などで動かなくなってしまった体の部分を、電気刺激で代わりに代償しようとするものです。治療要素というよりは、代行要素の意味合いで用いられます。
例えば、ペースメーカーもFESの一つです。
TESとは?
TES=therapeutic electrical stimulation
直訳すれば、『治療的電気刺激』です。
TESは電気刺激を治療として用いる場合の総称であり、EMSとも同義語として扱われることもあります。
TESがどのようになものに使われるかというと、以下のような効果を期待して使用されることがあります。
- 運動機能の改善
- 痛みの緩和
- 末梢循環の改善
- 骨癒合の促進
- 排尿機能の改善
- 創傷中治癒の促進
TESとTENSの違い
TESと名前が似ており、間違えやすいものとしてTENSというものあります。
これは、TENS=transcutaneous electrical nerve stimulationt、訳すと『経皮的神経電気刺激』と呼ばれます。
TESの中でも、主に痛みの緩和を目的に使用されます。
TESとTENSの違いは、TESの中にTENSが含まれているといったことです。
紛らわしいので、図で分類しておきましょう。
TESには、このように除痛を目的とした使用法など様々な使い道があるわけですが、今回はTESを狭義に捉え、筋力改善のための手段として考えていきます。
中枢神経麻痺に対する効果
TESについて最初に思い浮かぶのは、脳血管障害に代表される中枢性麻痺に対しての効果です。
中枢性麻痺に対するTESの効果としては、以下の2点があります。
- 筋委縮の防止・改善・筋力増強
- 痙性の緩和
筋を電気によって収縮させることで、筋委縮の予防ができます。また、筋収縮によるポンプ作用により浮腫を改善させ、末梢循環障害を改善させることもできます。
痙性の緩和方法としては、痙性筋の拮抗筋を刺激することで、相反抑制メカニズムを用いることです。
例えば、下腿三頭筋の痙性が高く、尖足となっている患者さんに対しては、前脛骨筋や腓骨筋群を電気刺激することで痙性の緩和を図ることができます。
これは一時的作用ではなく、効果がしばらく続く(carry over)ため、運動療法の先立ってTESを用いるのも効果的です。
非麻痺筋に対する効果
また、神経的な問題がないケースにおいても、骨折などで長期の不動や安静により廃用性筋委縮の恐れがある場合には、筋力低下が起きます。
そのような場合においても、TESによる筋委縮予防・筋力維持が期待できるとされています。
廃用性症候群やロコモティブシンドロームが取りざたされている、現代の高齢社会においては、特に今後注目が集まりそうです。
TESの基本的要素
電流の強さ・強度
筋肉を収縮させるためには、その細胞膜に電位変化を起こすための一定以上の強さの電流(intensity)が必要です。
強い強度の方が刺激効果は高いですが、同時に不快感や痛みも強くなってしまいます。
刺激周波数の特徴として、20Hzより低い周波数では筋疲労は起こりにくいですが、刺激による単収縮が完全に融合しないので筋収縮力は安定しません。逆に、30Hzより高い周波数では、早期に筋疲労を生じてしまうという欠点もあります。
よって、実際には20Hz程度が扱いやすいと思われます。
クリスティアーノ・ロナウド選手のCMでおなじみの【SIXPAD(シックスパッド)】でも、20Hzを使用しているようです。
京都大学名誉教授である森谷氏はこのことについて、深く研究していらっしゃいますので、MTG:EMS REVOLUTIONから引用させていただきます。
20Hzよりも高い周波数を用いると、約60秒で、筋肉の張力が低下してしまいます。筋肉が神経生理学的な条件を満たすことができず、トレーニング効果があまり望めない状態に陥ってしまうのです。20Hzは、時間が経過しても張力を保っているため、継続して効率的なトレーニングを行えるということが結論付けられました。
参考:Moritani et al. Exp Neurol 88:471-483,1985
よって、少なくとも【SIXPAD(シックスパッド)】に関しては、効果的な強度と言えるでしょう。
刺激パルスの持続時間とパルス幅
筋肉を収縮させるには、電気刺激の強度に加えてその刺激パルスの持続時間・パルス幅が問題となります。
パルス幅に関しては、長いほど筋収縮力は強くなりますが、1.0msec以上になると痛みに関連するC繊維まで刺激するために、不快感や痛みを生じます。よって、通常では0.5以下、とりわけ0.2~0.3msec程度のパルス幅を通常用いられます。
強さ-時間曲線
電流の強さとパルス幅との間には一定の関係があります。
電気エネルギー量は、電流強度×パルス幅によって決定されるので、電流強度が弱ければ長いパルス持続時間が必要となり、逆に電流強度が強ければ地時間パルス持続時間で筋収縮が得られることになります。
このことを、『強さ-時間曲線(SD曲線)』と呼びます。
時値(クロキナシー)
上記のように、刺激強度とパルス幅の関係により筋収縮がおきるわけですが、パルス幅をどれだけ長くしたとしても、一定の電流以下では筋収縮は起こらなくなります。
この電流の強さを『基電流』と呼びます。さらに、基電流の2倍の強さの電流で刺激した際に筋収縮を引き起こすのに必要な最短時間のパルス幅を『時値(クロナキシー)』と呼びます。
要するに、基電流の2倍のパルス幅のことです。
TESの実際
電極
電極配置としては、双極刺激が用いられることが多く、電極は表面電極が用いられることが多いです。
表面電極では、最近ではゴム電極やカーボン製電極が用いられます。
これにより、装置の小型化も相まって携帯することが可能となり、簡便に使用できるものが商品化されているというわけです。
期間
どのくらいの期間電気刺激を行えば、効果があるのかということですが、筋力の増大には少なくとも1~2か月間は必要でしょう。
これに加えて、筋肥大を伴う変化に関しては、さらに時間が必要となるかと思われます。
禁忌・注意事項
以下に対する電気刺激療法は、禁忌となります。
- 心臓ペースメーカー埋め込みをしている方。
- 重篤な心疾患のある方。
- 創傷・皮膚疾患を持っている方。
- 筋肉の収縮自体が、病状の悪化を招く恐れのある方。
- 頚部や院頭部への刺激。
次に挙げる方には、注意が必要です。
- 悪性腫瘍と診断された方。
- 妊娠中の方。
- けいれん発作の既往のある方。
まとめ
TESを中心とした電気刺激療法は、注意点もありますが、上手に使用すれば非常に有用なものです。
適切に使用する場合に限り、これを利用した筋力トレーニングは有効な手段だと言えそうです。