理学療法士にとって四肢周径(girth of extremties)は、運動器疾患であればもはやルーチンのように測定することもあります。
しかし、なんのために検査するのでしょうか。
そして、どのようにその検査結果を解釈すれば良いのでしょうか。
今回は、教科書的な答えをご紹介するとともに、周径測定の意味を考えていきましょう。
目次
四肢周径測定について
周径測定の部位
周径測定は、どの部位を測定するのが一般的かということを押さえておきましょう。
- 上腕周径
- 前腕周径
- 大腿周径
- 下腿周径
大きくわけて、この4つです。
さらに、それぞれで最大周径と最小周径を測定します。
最大周径は主に筋腹の最も膨隆した部位で測定し、最小周径は関節近位部で測定します。
周径測定の意義
四肢周径は、筋や骨の発達状態や、身体の栄養状態を把握するために測定します。
その中でも重要なことは、測定部位によって目的が異なることです。
主な目的は、以下のことを把握することです。
- 最大周径:筋委縮や筋繊維の発達状況
- 最小周径:腫脹や浮腫の程度
最大周径では、筋のボリュームをざっくりと把握することに役立ちます。最小周径は、筋や脂肪組織の少ない場所を計測するので、腫脹・浮腫の程度がよりはっきりと反映されます。
標準値・基準値よりは、左右差・時系列的変化を参考にする
周径測定では、年齢・性別ごとの標準値・基準値がないわけではないのですが、一般的には左右差や時系列における変化を参考にします。
しかし、栄養ケアとしての評価では、基準値と比較することがあります。
詳しくはこちらを参考にしてください。
栄養ケアの実際東北大学病院
左右差は何センチから問題?
これは、よく学生から受ける質問です。
実際には、0,5㎝でも差があれば原因の考慮が必要かとも思いますが、誤差や個人差もありますので、1㎝以上差があった場合に問題視しても良いかと思われます。
しかしもっと重要なのは、周径差の経時的変化です。
運動療法によってどのくらいの増加があったのか、もしくは不動期間によってどのくらいの減少があったのかの左右差を、その前後で判断することこそ有意義です。
実際の計測方法
測定肢位
上肢・下肢の測定肢位は、以下の通りです。
上肢を外転90°、もしくは下垂位とする
➀上腕周径:上腕中央膨隆部
➁前腕最大周径:前腕中央の最大膨隆部
➂前腕最小周径:前腕末梢の最小部
大腿周径:
➀膝蓋骨上縁0cm
➁上縁から5cm
➂上縁から10cm
➃上縁から15cm
※教科書によっては、膝蓋骨直上・関節裂隙から〇cmと記載されているものある。
➄下腿最大周径:腓腹筋の最大膨隆部
➅下腿最小周径:足関節の内・外果の直上
重要なのは、左右の測定位置を合わせること
上腕最大周径や下腿最大周径は、目視で見て判断することになっています。これでは正確な数字が出ない可能性があるので、工夫が必要です。
- どちらかの周径を測定した後に、周径測定部位からランドマークになる場所までの距離を計測する。
- 他側でも、同じランドマークからの距離で計測する。
このような工夫を行います。
例えば、下腿最大膨隆部と外果との距離を測定し、他側でもそれと同じ距離をでの場所で計測します。
そして、時間を置いて再度計測するときには、やはり同じ条件で計測する必要があります。
メジャーの当て方
まずは、基本的なメジャーの当て方です。
特に最大周径部では、柔らかい筋肉や脂肪の上にメジャーを当てるわけですので、締め付けすぎると性格な数字が出ません。
そこで、次のような方法で行います。
- メジャーを計測したい場所に巻く
- 一度左右から引っ張って、軽く締め付ける
- ゆっくりと指の力を抜きながら、メジャーを緩めていく
- メジャーが止まったら、そこで測定する
測定部位から分かること
特定の筋が占める割合から見えること
例えば大腿周径において、膝蓋骨から5㎝程度での特定筋の割合と、膝蓋骨から15㎝での割合は異なります。
特に顕著に表れるのは、内側広筋などです。
下の図をご覧ください。
これは、膝蓋骨から約5~10㎝程度上方での、大腿部の水平断です。
内側広筋の割合が非常に大きいのが分かります。
他には、半膜様筋や大腿二頭筋短頭のボリュームの比率が大きいですね。
それでは、次に膝蓋骨から約15~20㎝程度上方での水平断を見てみましょう。
この高さまで来ると、内側広筋だけではなく、大腿全体の筋群の大きさが分かります。
ここから言えることとして、どの高さの周径を計測したかによって、筋委縮が起きている筋肉が推測できるということです。
この情報と、MMTなどの検査結果を合わせて評価することで、より一層筋力低下が起きている部位を特定しやすくなります。
腫脹・水腫の存在
関節に近い部位になるほど、関節内の炎症による水腫や、関節周囲での腫脹の程度が分かります。
例えば、膝関節の水腫などの評価は、一般的には『膝蓋跳動』などで判断するわけですが、周径も一緒に加味することで一層信憑性は向上します。
測定条件を変える
より筋委縮を評価したいときには、筋収縮時と筋弛緩時の差を周径として測定します。被検者には、随意的に筋収縮を起こしてもらい、左右同じ条件の元に測定するのです。
そうすることによって、筋収縮時と筋弛緩時の差が大きければ、筋肉のボリュームはある程度確保されていることになりますし、その差が小さければ萎縮が進んでいるかもしれないという推測ができます。
浮腫の影響を考慮する
周径で筋委縮を見たいときなどに、最も大きな弊害となるのは浮腫の影響です。
筋肉のボリュームなのか、浮腫で腫れているだけなのかを判別しなければいけません。
そのためには、皮膚の状態や、圧迫や運動、肢位別による変化、また日内変動を見ていく必要があります。さらに、浮腫は様々な原因で起きるために、その医学的情報にも留意する必要があるでしょう。

まとめ
四肢周径測定は、それだけで何かを断定できるものではなく、他の検査と組み合わせることで初めて有効な検査方法となります。
各部位による筋の構造などを理解することにより、一層この検査は有効性を増していくでしょう。