脊柱管狭窄症は、日本の40歳以上人口の中のうち、240万が発症しているといわれています。80歳以上では、男性9.9%、女性15.8%であり、高齢化が進む日本では、今後さらにその有病率が増加していくとみられています。これは、腰部脊柱管狭窄症が、加齢に伴う退行性変化を基盤として発症するためです。
その治療法として、手術療法や薬物療法も重要ですが、できるだけ早期のリハビリテーションも非常に重要な役割を担ってくることは確かなことです。
目次
脊柱管狭窄症とは?
人体の神経系の最も重要な部分として中枢神経があります。中枢神経とは、脳から脊髄までを指し、人間の生命活動には必須の組織です。その中の脊髄は、脊柱管と呼ばれるトンネルの中を通って、脳からの指令を手足に伝え、逆に手足や体の体性感覚情報(触覚・温度感覚・痛覚等)などを脳へ伝達しています。
脊柱管狭窄症とは、何らかの原因により脊髄のトンネルである脊柱管が狭くなり、それにより脊髄や神経の枝が圧迫を受け、腰の痛みや脚のしびれなどを様々な症状を呈する疾患です。
脊柱管狭窄症の原因
はっきりとしたことは原因は完全に解明されてはいませんが、考えられることとしては、まず加齢に伴って骨の変形が生じることが挙げられます。また、脊柱管の前から椎間板の膨隆が起きたり、後方からは黄色靭帯の肥厚によって脊柱管が圧迫を受け、神経の血流が低下することなどが考えられています。また、腰椎すべり症や腰椎椎間板ヘルニアに続発して発症するとも言われています。
この中でも、黄色靭帯の肥厚は重要な因子です。黄色靭帯とは、腰の背骨の上下をつなぎ合わせる靭帯の一つであり、脊柱管に面していることから、肥厚や石灰化といった加齢変化が起きると脊柱管狭窄症の原因となると考えられています。しかし、MRI上でそのような変化が見られたとしても、必ずしも全ての方に症状があるとは限りません。
脊柱管と腰の骨の構造
腰部の骨は1番から5番まで5つ存在し、前方は椎体で構成され、そのすぐ後ろに脊柱管は存在します。その影響で、脊柱管は背骨を後ろに反ることで狭くなり、前に曲げると脊柱管は広がるといった構造となっています。このことは、腰部脊柱管狭窄症の方が、腰を反ると症状が強くなり、前のめりに腰を曲げると症状が楽になることの理由です。
また、脊柱管の中では、神経は腰椎の2番目以降で馬のしっぽのように枝分かれしており、それより遠位部分を馬尾神経と呼びます。馬尾神経は、脊柱管の中を通過して、最終的には椎間孔と呼ばれる背骨の出口からそれぞれ出ます。その出口から出た神経を、神経根と呼びます。
脊柱管狭窄症の症状
脊柱管狭窄症の主な症状として、間欠性跛行があります。『間欠性』とは、常に症状があるわけではなく、症状が起きたり起きなかったりする様子のことです。間欠性跛行は、脊柱管狭窄症において最も特徴的な症状であり、しばらく歩くとだんだんと、ふとももや膝から下に徐々にしびれ感や重だるさを感じるようになります。最初は数百m程度歩けていた人も、だんだんと歩くことができる距離が短くなり、人によっては何十m歩いただけで足が痛くなるなんていう方もいらっしゃいます。しかし、座って腰を丸めたりすると症状は改善し、また歩くことができるようになるといったことを繰り返す症状です。
この間欠性跛行は、脊柱管狭窄症において共通した症状ではありますが、その他にも、神経のどの部分に圧迫を受けるかによって症状は異なります。
以下がそのパターンです。
・馬尾型
・混合型
神経根型
脊柱管の外側が狭くなることで、脊柱管の両側から出る神経根が圧迫を受けるタイプです。下肢の痛みが主体であり、多くは片側性から始まることが多く、どちらかの足に先に症状が出現します。変形性脊椎症が背景にあると起きやすいと言われています。腰を反ることで症状は増悪する傾向にあります。
馬尾型
脊柱管の中心部が狭窄することにより、馬尾神経が圧迫されます。主な症状としては、神経根型にみられるような、どちらか一方の下肢の痛みというよりは、両下肢のしびれやだるさ、脱力感などが主体となります。また、腸や膀胱を支配する神経が圧迫されることにより頻尿や残尿感、便秘といった膀胱直腸障害が起きることもあります。
混合型
神経根型と馬尾型の両方の特徴を併せ持つタイプです。間欠性跛行が生じることは共通していますが、下肢の痛みが片側性だったり両側性だったり、症状はまちまちです。
腰部脊柱管狭窄症のリハビリテーション
それでは、腰部脊柱管狭窄症のリハビリについてみていきましょう。
手術療法か保存療法か
レントゲンやMRIの画像上、脊柱管の狭窄が見られたとしても、すぐに手術になることはほとんどありません。手術適応になるケースは、ごく少数ではありますが、下肢の筋力低下が重度になってきたり、排尿排便が困難になってきた場合です。そのような方は、医師との相談の上、タイミングを見計らって手術が行われることはあります。手術の方法については、ここでは割愛します。
多くは数か月間保存療法として、薬物療法と運動療法を行います。物理療法として、ホットパックや腰椎けん引や電気治療といったことも並行して実施することがあります。
効果的な運動療法を行うために
本やインターネットを見ていますと、ストレッチや筋力トレーニングをしましょうといった漠然としたことが書いてありますが、間違いではありませんが、何も考えずにそれらを選択しても、効果は上がりません。
運動療法のポイントは、次のことです。
➁腰椎前彎の増強因子を排除する
➀まずは、機能的に変化する部分をピックアップします。
椎間板の膨隆や、黄色靭帯の肥厚、骨の変形は、運動療法で治すことはできません。しかし、間欠性跛行にみられるように、脊柱管狭窄症は、姿勢や動作など荷重状態などの機能的な部分も症状に影響を与えます。
要するに、患者さんの中で、楽になる動作をピックアップして、それらの傾向をまとめるということです。そして、楽になる動作の要素を分析し、筋力トレーニングやストレッチを通じて、その方向へ体を導いていくわけです。それは、日常生活上の動作指導も含めます。具体的には、ものを床から拾うような動作では、しゃがんでから行うことや、歩行時にシルバーカーやカートを使用することなどが挙げられます。
重要なことは、脊柱管の狭窄率と実際の症状の程度は、必ずしも比例しないということです。患者さん一人ひとりの状態を個々に評価する必要があります。
➁腰椎前彎の増強因子を排除する
脊柱管狭窄症において共通することとして、腰を反ると症状が強くなるといった傾向があります。これは、姿勢によって狭窄部の硬膜圧が上昇するためです。また、神経根型においては、椎間孔付近のでの刺激を誘発することもあるかもしれません。
腰を反る傾向を、構造的に治すことはリハビリで可能なことがあります。腰背部筋や股関節前面の筋肉の柔軟性を改善させ、腹筋群や大殿筋、ハムストリングスをトレーニングしていくことによって、前彎因子を排除していくことが必要です。
まとめ
脊柱管狭窄症のリハビリは、タイプ別に症状は様々であり、保存療法が第一選択となりやすくはありますが、それぞれ生活スタイルが違い、症状の増悪因子も違うので、患者さんを個別に評価をしていく必要があります。症状がなかなか改善しない場合、運動量も減りやすいので、二次的な合併症が生じることもありますので注意が必要です。