国家試験に合格し、理学療法士としてのキャリアがスタートした後に、職場で勧められるのが理学療法士協会への加入です。
何となく加入している人もいれば、必要がないとして未加入の方もいらっしゃいます。
ネットで検索すると、理学療法士協会への参加のメリットやデメリットがたくさん出てくるわけです。もちろんそれも大事なのですが、実際にはそれだけで語れない理由があります。
目次
理学療法士協会の加入率
日本理学療法士協会の統計情報のデータを見てみましょう。
平成28年度の段階において、国家試験の合格累計数139203人に対して、会員数106,670人であり、その組織率は76.6%となっているようです。
参加が任意なものとしては、とても加入率が高いですね。
理学療法士協会は必要なのか?
理学療法士協会が行っている主なものとしては、次の内容があります。
- 学術大会や研修会の開催
- 生涯学習の推進
- 学術誌発行
- 調査・研究
それに加えて、理学療法士協会は職能団体として、理学療法士の社会的な地位向上目指して報酬改定に対する取り組みなどを行っています。国や厚生労働省との意見交換も度々行っているようです。
よく理学療法士同士で話しに出る内容として、「理学療法士協会なんか入る意味なんかないよ」なんていう意見を聞くわけですが、そんな意見を言っている未加入の理学療法士のためにも、協会は一生懸命活動しているわけです。
このような職能団体がなければ、理学療法士は舵を失った船のように迷走する可能性もあります。理学療法士にとって不利な制度改正が行われたとしても、対処するすべもなくなります。
理学療法士協会は加入・未加入を問わず、理学療法士にとって必要なものです。加入の損得を考える前に、そのことをまず理解しておく必要があります。
理学療法士協会入会のメリット・デメリット
理学療法士協会に入るかどうかは、完全に個人の自由です。
全ての理学療法士は、理学療法士協会の活動に対して感謝すべきだと思いますが、加入までは義務付けられてはいません。
一般的に言われているメリット・デメリットを、まず挙げていきます。
入会のメリット
理学療法士協会入会のメリットは、大きく分けて以下の通りです。
- 理学療法士としての方向性を与えてくれる。
- 理学療法士協会が主催する研修会の受講料が安くなる。
- 専門誌『理学療法学』が年数回送られてくる。
- 診療報酬・介護報酬が改定された際に、情報が提供される。
- 賠償責任保険に加入できる。
理学療法士としての方向性を与えてくれる
理学療法士協会の主催する、新人教育プログラムを終了すると、認定療法士・専門療法士を目指すことができます。
理学療法士はその性質上、それぞれの人間の理論や手技に偏りが出るものです。それをある程度統一していくという意味では、これらは有意義なものであると思います。
個人のメリットとしては、新卒者などで自分の理学療法士としての考え方などに自信がない場合に、方向性を与えてくれる媒体としての価値は十分にあると思います。
また、認定療法士・専門療法士資格を持っているということは、理学療法士の間での信頼が増します。少なくとも僕としては、認定療法士・専門療法士資格を持っている理学療法士に対しては、ある程度の能力を有している(努力している)と認識させられます。
しかし、さらに認定療法士・専門療法士制度が、理学療法士全体を益するためには、多職種への認知度の向上と報酬への影響の改善が必要です。
理学療法士の間では、ある程度認知されているこれらの資格ですが、多職種からは知られていないのが現状です。僕が関わった医師・看護師その他のコメディカルスタッフの中で、「認定・専門理学療法士」というものがあることを知っている方は一人たりともいませんでした。
また、認定療法士・専門療法士を持っていることで、診療報酬や介護報酬の加算がとれるといったこともありません。
よって、これらの資格が転職に有利に働くことは基本的にないでしょう。人事を理学療法士が行っている病院や施設があれば別かもしれませんが・・・。
理学療法士協会が主催する研修会の受講料が安くなる
理学療法士協会は、各種のセミナーや研修会、学術大会を実施しています。
近年、理学療法士の研修会や学会は、理学療法士協会主催のもの以外にも多くあります。
しかしその中でも規模が大きく、権威あるものといえば、やはり理学療法士協会主催のものは外せない印象があります。
学術的なキャリア形成をしていきたいと考える理学療法士であれば、加入は必須と言えるでしょう。中には、大学教授を目指して学術活動に奮闘している理学療法士もいますので、その辺の価値観は人それぞれです。
専門誌『理学療法学』が年数回送られてくる
理学療法士であれば、見たことない人はいない専門誌でしょう。
『理学療法学』は、最新の研究論文が1冊の中で5~9のテーマで構成されており、専門性がとても高い内容となっています。
ただし、最近ではjstageでも読むことができるので、必須ではないかもしれません。オンラインで文献が読めるって、良い時代ですね。
診療報酬・介護報酬が改定された際に、情報が提供される
厚生労働省のホームページに張り付いていれば分かることなのですが、これもメリットと言えます。
どうしても公的機関の情報では、内容が煩雑であり、知りたい情報に行きつくまでに時間がかかります。
それに比べて、協会からの情報提供内容は理学療法士向けなので、分かりやすい傾向にあります。
賠償責任保険に加入できる
ほとんどの場合、病院や施設自体でも賠償責任保険には加入していることと思います。
しかし、近年では理学療法士が医療事故が起きた際に、理学療法士個人に対しても、その責任分の支払いを命じられるようなケースが出てきています。
それに備えて、個人でも賠償責任保険に加入することは必要な時代なのかもしれません。臨床にいる限り、この件は他人ごとではないので、これは大きなメリットと言えそうです。
入会のデメリット
これはもはや、一つだけしかありません。
会費が高いことです。
年会費は、(会費11,000円+都道府県理学療法士会費)=2万円前後です。
残念ながら、普通の理学療法士の年収は高くありません。
その中から2万円前後の年会費を毎年払い続けるのは、負担となるでしょう。
これだけ高額にしなければいけない理由も、やや不透明な部分を感じます。
『なんとなく』に流されてはいけない
理学療法士協会に加入している方の中には、『なんとなく』加入している方も多くいらっしゃるでしょう。
多くの理学療法士は、自分自身の行っている理学療法について、常に疑問や「これでいいのだろうか?」といった懸念を持って仕事をしていることでしょう。
むしろ、良い理学療法士こそ、そのように考えやすいわけですが、【理学療法士協会に加入すること】を安心材料にしてはいけません。
加入しているから、なんとなく自分も理学療法士としての立ち位置が安定しているという錯覚に陥ることが多々あるからです。
あくまでも、理学療法士協会の加入には、加入の目的をはっきりとさせることが重要です。
まとめ
理学療法士協会は、全ての理学療法士にとって有益な存在であり、感謝すべき存在でもあります。
その一方で、メリット・デメリットが存在し、その加入は個人の自由です。
加入する際には、人に流されないように、よく内容や自身のキャリアプランを考慮した上で決めて下さい。