理学療法士になるべく実習に赴く学生は、戦地に向かう兵士の気分さながらでしょう。
それだけ実習生にとっては未知の領域です。
今回は、それを乗り越える心構えと、学生がつまづくポイントについて僕の考えを簡単にお話します。
目次
理学療法士の実習における問題点
中には、本当にどうしようもなく勉強をやってこなかった学生や、態度が悪い学生も確かにいます。極端な例ですが、僕はガムを噛みながら見学をしていた学生を知っています。
しかし、大半の学生は真面目であり、ある程度勉強をした状態で実習先に来ています。そもそも、本当にどうしようもない学生は学校側が実習前指導においてストップをかけるはずです。そう信じています。
本当の問題は、実習を指導するスーパーバイザーやケースバイザーが、『教育を行うための教育』を受けていないことです。これは間違いありません。
よく考えてみて下さい
小学校や中学校などで、教員免許を持っていない人間が「俺も昔は学校で勉強したんだから、その経験を持って、君たちに教えよう」と持論を振りかざしていたら、恐ろしいわけです。
しかし、これが実際に理学療法士の実習の一部では起きています。指導内容もそうですが、指導の方法はもっと問題です。もちろん全ての実習先でのことではありませんが、学生の人間性を否定するような発言や、コミュニケーションの不備を全て学生の責任とすることもあります。
そんなことはないと考える方は、「理学療法士 学生 自殺」で検索してみて下さい。
今後、理学療法士協会の中で一定の教育を受けた人間のみがバイザー資格を得るような時代になってくるかもしれませんが、そうすると実習受け入れ先が減ることは確実なので、なかなか難しいところでしょう。
学生は自分を責めるのを止めよう
「自分が勉強できないのが悪い」「自分がコミュニケーションを取れないのが悪い」「評価ができないのが悪い」
そんなことは一切ありません。
学生はできなくも当然です。
こんなことを言うと、『いや、ある程度はできるようになってから実習へ来るべきだ』『自分の実習の時にはこのくらいできた』といった声が聞こえてきますが、そもそもそんな考え方をもっている人間がいるから良くならないのです。
臨床に出てからでさえ、研修があり、少しずつ患者さんをみることが出来るようになってくるわけであって、学生の時代からできなくても問題ありません。
問題は、できない学生の状況を把握して、どのように指導していくかを順序立てて計画して教えることができるバイザーが少ないことです。
よって、学生はできないことで自分を責めるのをまず止めて下さい。
バイザーの中には、なぜ理不尽なことを言う人間がいるのか
いくつか理由があると思いますが、ざっと考えてみました。
・理学療法士の質の低下に危機感を持っている
・一つの手技や思想に固執している
自分が厳しく指導されたこと
僕は約10年前に実習に行きましたが、当時も実習はかなり厳しい場所が多くありました。今では“パワハラ”といった言葉が浸透してきましたが、その当時はまだそれほど世の中で厳しく言われていなかった印象があります。
そういった背景もあり、『教育を行うための教育』を受けていないバイザーは、自分が経験した通りの実習を学生にしてしまうのは容易に想像がつきます。
これは親子関係にも似たところがあります。子供は、親からされたことを自分の子供にもしてしまう傾向があるのと同じです。
理学療法士の質の低下に危機感を持っている
よく、「理学療法士は質の低下が懸念されている」といったフレーズを最近耳にすることが多くなりました。近年、毎年1万人程度の理学療法士が新たに誕生しています。学校は乱立し、理学療法学科のある養成校に入学するのはそれほど難しい状況ではなくなっています。
確かに、今後、理学療法士の質の向上は必須であり、それは診療報酬となって自分たちの生活に関わってくるわけなので、現役の理学療法士は必死です。
しかし、質の低下を予防する場所は、『実習』ではありません。実習はあくまでも、学生が養成校で学んだことを活かし、臨床へつなげるための教育の場所であり、選別の場所ではありません。残念なことに、現実的には、無意識にでもそのような考えを持っている人間は少なからずいるでしょう。
そもそも、実習の合否をバイザーが出すことになっているのが間違いです。判定する基準もないのに、いったい何を基準に合否を出すのでしょうか。自分の主観以外何者でもありません。現在のシステムにおいては、実習の合否は、実習の経緯の報告を受けた養成校が全責任を持って出すべきです。
一つの手技や思想に固執している
これは、一部の人間に限ったことですが、専門的に習得しているファシリテーションテクニックや、治療法などに固執している場合、それが全てだと思い込んでしまうことがあります。直観や先入観や願望が、論理的思考を妨げているケースがあります。これは、社会心理学で認知バイアスと呼ぶそうです。
自分が一生懸命努力している手技や思想は、正しく真実であって欲しいという思い込みといったところでしょうか。これは全ての人が陥りやすいことであり、何も理学療法士に限ったことではありません。
僕の書いているこの記事も、かなりバイアスの影響を受けているかもしれません(笑)。しかし、学生の人生を左右する実習において、そのようなバイアスに支配された状態で教えるのは危険極まりないですね。
対策
実習において辛い思いをしている学生さんや、これから実習に行く予定の学生さんは、次のことを覚えていて欲しいと願っています。
・必要に応じてデイリーノートに、自分の実習やバイザーに対する思いを記載する。
小さなことでも、問題が起きたら養成校の教員に逐一報告する
実習中の一番の見かたは養成校の教員です。そして、一番中立的な目線で学生と実習先の関係を把握し、決断を出すこともできます。しかし、現状がどのようなことになっているか把握してなければ、教員の先生も対応することはできません。
問題が大きくなりすぎてからでは、修正不可能なこともあります。人にとっては大したことのない問題でも、自分にとって大きな問題であれば、遠慮せずに相談をして良いのです。
これで、大概の問題は普通未然に防ぐことができます。真面目にやっているのに実習中止や不可を評価としてもらってしまう学生の多くは、初期の段階において担当教員との連携がうまく取れていません。
必要に応じてデイリーノートに、自分の実習やバイザーに対する思いを記載する
デイリーノートの重要性を認識してください。デイリーノートは、単に一日の出来事や学んだことを書くためだけのものではありません。
それは、自分と実習地との間の関係を記した証拠であり、いざという時には、自分の実習地での対応が問題なかったかどうかを判断する材料となります。ぜひデイリーノートに、自分が今どのように実習先について感じているのか、どうしていきたいのか、どうして欲しいのかを積極的に書いて下さい。
先ほど述べたように、それは養成校の担当教員の判断基準ともなるのです。
最後に
これから実習へ行く学生の方々は、実習先によっては大変なこともあるかと思いますが、今回書かせていただいたことを参考にしてただき、最後まで頑張っていただきたいと願っています。