「理学療法士の実習は厳しい、辛い」ということは、以前から定番のように言われてきたことです。
昔も今も、理学療法士の実習先では、理不尽な体験を多くの方が経験しているようです。
09年度から臨床実習について、学生にアンケート調査をしてきた九州地方の専門学校教員の松崎秀隆・保健医療学博士によると、毎年約6割の学生が臨床実習で「不当な待遇と感じた」と答えるという。具体的な内容としては、指導役の理学療法士から受けた仕打ちとして「無礼、冷淡な態度」「悪い成績をつける、単位をあげない(と言われた)」「忙しいとあまり指導されない」--などが挙がるという。
引用:毎日新聞2017年9月8日 大阪朝刊
もちろん全ての実習先ではありませんが、未だにパワハラまがいな対応をしている病院・施設があるということに悲しく思います。
特に、指導内容だけではなく、人格否定するような人権に関わるようなものは許されるものではありません。
実習生に対して、挨拶も返さない理学療法士は本当にどうかしてる。
自分が学生時代厳しくされたのか知らないけど、パワハラチックな理学療法士を見るたび、ゲンナリします。過去の悪習はそろそろ終わりにしたい。
— Baboon (@Pt_Baboon) 2017年10月2日
先日、思うところがあって、僕はこのようなツイートをしたわけですが、よく考えてみれば自分にも心当たりがありました。
ここでは反省の気持ちを込めて、現場の一人の理学療法士として、現状の課題や改善案について考えてみたいと思います。
自殺者まで出てしまっている現状
2013年に大阪の専門学校に通っていた学生が、実習先を抜け出して神戸市内の公園で自ら命を絶ったという事件をご存知でしょうか?
とても痛ましい話です。
その学生の奥様は、「夫の自殺は実習先で受けたパワハラ的指導が原因」として専門学校とクリニックを運営する医療法人に対して損害賠償を求めて大阪地裁に提訴しており、現在も係争中です。
この件だけでなく、大小問わず理学療法士は学生に対して過剰に厳しくしてしまう傾向があります。
理学療法士の実習において、なぜパワハラじみた環境が存在し、現在も残っているのでしょうか?
自分の体験から考えてみる
お恥ずかしいことに、以前僕も実際に、バイザーとして学生指導に関して辛く当たってしまったことは何度かありました。
理由は次のようなことです。
- 業務が立て込んでいて、学生の対応に時間を使う余裕がない。
- 思うように学生の症例レポート作成が進んでおらず、指導に行き詰りを感じてしまう。
- 自分の考え方に偏りがあり、その考え方に沿った進め方以外は拒絶してしまう。
僕の場合は、今思い起こすと、こういった理由だったような気がしています。
効率的に教えることができなかったり、どうやって教えれば伝わるのかが分からなかったりして、それがストレスになってしまっていたのではないかと思います。
また、その時に熱中していた手技や理論などが、もろに実習生への指導に反映されてしまっていた時もありました。
国の介入
今年に入り、厚生労働省は専門家による検討会を開き、養成施設への外部評価導入などの指導体制の見直しに乗り出しています。
「理学療法士・作業療法士学校養成施設カリキュラム等改善検討会」をこれまでに2回開催し、カリキュラムや臨床実習の体制について議論しているようです。
現在の実習制度の課題
理学療法士の実習制度の課題として、第2回理学療法士・作業療法士学校養成施設カリキュラム等改善検討会での資料において、次のようなものがありました。
これを見ると、パワハラについての問題点は次のようなことが大きいと言えそうです。
- 実習先が全国に分散している。
- 実習先に一任している。
- 実習指導者が『教育』を学んでいない。
さすがにこのトリプルコンボはまずいですね。
改善のために
学校と実習地のパイプを担う組織が必要
まず、学校と実習地の間のパイプ役が必要です。
- 学校側:実習地に依頼する立場
- 実習地:学校に依頼される立場
この2者だけの関係がそもそもおかしいのです。
学校側からすれば、むやみに厳しすぎる実習地だからといって切っていくのは、実習の受け皿が減ってしまうことになるので躊躇してしまう部分もあるでしょう。
本来は、ブラック実習地はどんどん切り捨てていくべきだと思います。全ての実習先の理学療法士を指導者として教育していくというのは現実的でないので、指導能力のある実習地を強化していくしかありません。
そのためには、学校から実習地へ実習生を振り分ける機能を持つ調整役が必要です。調整役には、当然のごとく厚生労働省が介入するべきだと思います。
実習生を受け入れたくなるシステムを
現状では、どうしても実習生の受け入れは、実習地サイドにとってはプラスαの仕事が増えるだけとなってしまっています。
どちらかといえば現状のシステムは“実習地の好意で学生を受け入れている”という形なのが問題です。
実習生を受け入れることで、実習地と実習生のどちらもwin-winの関係を作る必要があります。
そのためには、例えば次のような方法があります。
- 学校と実習地の関係において、他の面でも提携していく。
- 国が補助を出すことで、実習先への実習費を増額する。
まとめ
近年、小中高の学校教育においても、体罰や人権問題が取りざたされています。そのような中で、未だに古い体質が残る理学療法士の教育制度は改善が必要です。
国だけに任せきりにせず、僕たちも意見を積極的に挙げていくことが重要だと思っています。