理学療法士は、今後超音波診断装置(エコー)を使えるかどうかで大きな差が生まれていきます。理学療法士個人の努力も必要ですし、病院側の理解も必要となってくるでしょう。しかし、リハビリ全体の進歩と社会における立ち位置を確固としたものとするためにも、このトピックは今後非常に重要なものとなるはずです。
目次
理学療法士の弱点
理学療法士には決定的な弱点があります。
それは、『科学的効果判定の手段に乏しいこと』です。簡単に言えば、客観的に第三者が見て、リハビリによって効果が得られたかどうかを判断しにくいということです。
理学療法士が、いくら「筋力が上がりましたよ」と言っても、通常行うようなMMT(徒手筋力検査)などでは、主観的な差が生まれます。「○○筋のストレッチによってが可動域改善されました」と言っても、本当に○○筋が原因であったという客観的な指標はありません。そうだったかもしれないし、そうでなかったかもしれません。自然治癒だったのかもしれません。
医師の場合はどうでしょうか。医師には、画像診断や血液データなど様々な科学的な効果判定手段があります。これによって得られた結果は、誰が見ても明らかなものですし、他者と共有しやすい客観的な指標となります。
理学療法士の弱点を突かれると、不利になっていく
そういった理学療法士の特有の問題があり、「リハビリは意味があるのか?」という風潮になってしまう傾向があるのです。
上の記事でも触れましたが、2006年の診療報酬改定は、リハビリ業界において大打撃を与えました。その背景となったのは、2004年に出された中間報告「高齢者リハビリテーションのあるべき方向」です。これは高齢者リハビリテーション研究会が提示したもので、その中では、「長期間にわたって、効果が明らかでないリハビリ医療が行われている場合がある」といったことが含まれていました。
言葉が悪くなってしまって申し訳ありませんが、本来、こんなふざけた内容は到底受け入れられません。
リハビリ医療はまだまだ足りないばかりです。伸びしろのある患者さんがどんどん高い水準でリハビリを受ける機会を失ってきているのです。ただ唯一反論しにくい所があるとすれば、我々には「客観性のあるリハビリの効果を証明する判断基準」に乏しいということなのです。その弱点を突かれると、このような無残な結末になってしまいます。
診療報酬改定は、これからも2年おきに容赦なく行われます。少子高齢化が進み、社会保障費をなんとか抑えたい日本にとって、このリハビリの弱点は今後また足元をすくわれる原因となるかもしれません。
技術(スキル)に科学的根拠を与える
近年、EBPT(Evidence-based Physical Therapy)という言葉が広まってきています。これは、“根拠に基づく理学療法”という意味であり理学療法に客観性のある科学的根拠を与えていこうといった取り組みです。
日本は、欧米諸国に比べてこの概念に立ち遅れているようで、今後の課題となっています。理学療法にまつわる各種学会や研究会はたくさん存在し、それぞれで研究の蓄積は行われていますが、それをどのように臨床にエビデンスを与える形で応用していくかというところまでは、なかなか至っていないのが現状です。
しかし、僕の周囲の理学療法士を見ても、全員というわけではありませんが、非常に技術(スキル)の高い人間が多くいます。患者さんをバンバン治して毎日感謝の言葉を浴びながら、日々リハビリを行っている理学療法士も数多くいるわけです。
このように理学療法士の持っている高い技術(スキル)に科学的根拠が加わることで、リハビリの世界は大きく発展していくはずです。
超音波診断装置(エコー)のメリット
超音波診断装置の特徴は以下のことが挙げられます。
リアルタイムに組織動態を観察することが可能である。
組織の硬さを知るための機能もある。
炎症反応を見る機能もある。
非侵襲的な検査である。
もはやこれだけで、理学療法士に最適なものであることが分かります。
ポータブルできれば、スポーツの現場などに持っていって理学療法士がよく行っているトレーナー活動に利用できますし、拘縮の原因をリアルタイムに観察することで、リハビリの効果判定をより客観的なものとすることができます。エラストグラフィーと呼ばれる機能を使えば、組織の硬さを定量的に数字で見ることが可能であり、理学療法士が「筋肉が硬い」「硬くない」といった主観的発言からも解放されます。ドップラー機能を使えば、組織の炎症反応を見ることが可能であり、熱感や腫脹、発赤等の所見に加えてより信憑性のある評価を行うことができます。これらのものを、低リスクで行うことが可能であるということは、理学療法士にとっては非常にメリットがあります。
超音波診断装置は、まさしく、理学療法士の弱点を克服する優秀なツールになるのです。
超音波診断装置(エコー)を用いることのデメリット
これはもはや一つしかありません。採算性です。
超音波診断装置は当然高価な機材であり、理学療法士はそれを用いてリハビリを行ったとしても加算は一切ありません。
そういった面により、病院側としてはリハビリ部門には導入しにくいでしょう。逆に、現時点でリハビリテーションに導入している病院・施設は理学療法士への理解があると思いますし、正直とても羨ましいです。
今後、理学療法士行うべきこと
今後は、当然理学療法士の職域が広がり、報酬改定が良い方向にいくのが望ましいわけですが、ただそれを要求するだけでは不可能です。理学療法士の政治力は決してまだ十分強くないので、ごり押しでは要求は通りません。
そこで、こういった客観的な指標を利用してリハビリの有効性を訴えていき、いかにリハビリに需要がまだあるかということを科学的根拠として示していくしかありません。そのためには、まず医師や多職種と連携を図り、理学療法を理解していただく努力を行い、採算度外視でも超音波診断装置などを使わせていただく環境を作っていく必要があるでしょう。理学療法士だけの世界に閉じこもらないことが重要です。
まとめ
すでに超音波診断装置を使ったリハビリ関連のセミナーなどは日本各地で少しずつですが行われてきています。理学療法士が参加することのできる研修会は多くないのが現状ですが、将来性を考えるのであれば、積極的に受講してマスターしておく価値は十分あるでしょう。