大腿四頭筋は、その名の通り4つの筋頭を持つ筋肉です。
すなわち
- 大腿直筋
- 中間広筋
- 外側広筋
- 内側広筋
以上の筋肉はともに膝関節伸展に作用するわけですが、全伸展トルク(関節回転力)の8割を広筋群が担い、残りの2割を大腿直筋が担っていると言われています
今回は、大腿四頭筋の中でも最大の断面積を持つ外側広筋についてご紹介していきます。
目次
外側広筋の英語表記
外側広筋は英語で
『Vastus lateralis muscle(ヴァスタス・ラテラリス・マッスル)』です。
Vastus=広筋 lateralis =外側の
外側広筋の起始停止など
起始:
- 大腿骨粗線の外側唇
- 大転子の外側面
停止:
- 膝蓋靭帯を介して脛骨粗面
- 外側膝蓋支帯を介して外側顆
作用:
- 膝関節の伸展
- 下腿の外旋
神経支配:大腿神経(L3-L4)
外側広筋の重要性
内側広筋に隠れた、その存在感
広筋群では、その膝関節の構造上、内側広筋に注目が集まりやすい傾向にあります。なぜなら、内側広筋が『膝関節の安定性』に深く関わる特性上、様々な疾患に影響があるからでしょう。
膝関節にはQ角が存在することから分かるように、膝蓋骨は外側変位を生じやすい形態となっており、内側広筋はそれに拮抗することで膝関節の安定性に関わっています。

内側広筋に比べて、外側広筋がリハビリのトピックに挙がることは多くありませんが、外側広筋は、次のような痛みに関わる重要な筋肉です。
外側広筋の拘縮がもたらす痛み
外側広筋は、腸脛靭帯や外側膝蓋支帯との関係から、以下のような疾患の痛みの引き金になることがあります。
- 変形性膝関節症
- 膝蓋大腿関節症
- 有痛性分離膝蓋骨
- ジャンパー膝
- オスグッドシュラッター病
これらでは、多くのケースで外側広筋の攣縮(筋スパズム)や硬さ(tightness)が問題となります。
外側広筋と腸脛靭帯の関係
腸脛靭帯による外側広筋の圧迫力
腸脛靭帯は、大腿筋膜の側面に存在している最も厚い組織です。
画像引用元:プロメテウス解剖学アトラス 運動器系第2版
上記の図でも分かる通り、腸脛靭帯は外側広筋の筋腹の上に存在しています。よって、腸脛靭帯の緊張が高まると、外側広筋には上から押さえつけられるような力が加わります。
そのような力が持続的に加わった結果、外側広筋は攣縮(筋スパズム)を生じることになります。
変形性膝関節症(内反型)での変化
例を挙げるとすれば、変形性膝関節症による内反膝(O脚変形)です。
以下の図をご覧ください。
変形性膝関節症による内反膝は、腸脛靭帯を伸長させる要因となります。
さらにここから、歩行時のlateral thrust(膝の外側動揺)が起きれば、さらに瞬間的に腸脛靭帯は伸長されることでしょう。
よって、内反型の変形性膝関節症においては、外側広筋は腸脛靭帯に押し付けられる状態を強いられることになります。
実際に、臨床で変形性膝関節症の患者さんの外側広筋を圧迫すると、痛みを生じたり、「筋肉痛を押されたような感じがする」という表現をされることがあります。
これは、腸脛靭帯の緊張によって、外側広筋を包む大腿筋膜の区画内圧が上昇することで生じます。
大腿筋膜張筋の評価も重要
腸脛靭帯の緊張度合いは、大腿筋膜張筋の伸張性に左右されます。
よって、外側広筋を評価する際には、大腿筋膜張筋の伸張性テストを行う必要があります。
代表的なものは、オベールテスト(Ober’s Test)です。
オベールテストは大腿筋膜張筋の硬さ(tightness)を評価するための整形外科的テストです。
膝関節屈曲位で股関節を外転・伸展させ、大転子の上に大腿筋膜張筋が位置する状態から、どの程度股関節が内転するかを見ていきます。
動画で見た方が分かりやすいと思います。
外側広筋の拘縮がもたらす痛み
膝蓋骨の牽引力
外側広筋の拘縮によって、膝蓋骨を外側へ牽引する力が生じます。
特に、外側広筋斜走繊維と連結する外側膝蓋支帯の拘縮も、膝蓋骨を外側へ引き付ける原因となります。
これらの力は、膝蓋骨と大腿骨の圧縮応力を高め、最終的には膝蓋大腿関節症へとつながるリスクファクターとなります
腸脛靭帯の影響
ここでも、やはり腸脛靭帯の影響があります。
腸脛靭帯は、脛骨ガーディー結節に付着するとともに、最表層は膝蓋骨にも付着するとされています。
よって、腸脛靭帯の過剰な緊張は、膝蓋骨を大腿骨関節面へ過度に押し付けることにもつながります。
このように腸脛靭帯は、外側広筋の攣縮を引き起こすことで膝蓋骨に間接的な影響を与えるばかりか、腸脛靭帯自身でも直接的に膝蓋骨へ影響を与えます。
膝蓋下脂肪体への影響
外側膝蓋支帯について
先ほども出ました外側膝蓋支帯は、外側縦膝蓋支帯と外側横膝蓋支帯に分かれます。
外側縦膝蓋支帯は、外側広筋から起始し、膝蓋骨を介すことなく脛骨外側の上端へ付着しています。外側横膝蓋支帯は、「外側膝蓋大腿靭帯」とも呼び、これは膝蓋骨と大腿骨外側に付着しています。
膝蓋下脂肪体の内圧上昇
外側膝蓋支帯の拘縮は、膝蓋下脂肪体の動態に影響を与えます。
詳しくは、こちらの記事をご参照下さい。

よって、外側広筋の拘縮は、膝蓋下脂肪体の痛みを引き起こす因子にもなることがあります。
外側広筋のストレッチ
外側広筋のストレッチは難しい
外側広筋の作用は膝の伸展であるので、普通に考えれば膝の屈曲で伸長するはずです。
拘縮が著しい場合であれば、それでもストレッチ効果が出るかもしれませんが、それだけでは不十分であることが多いです。
そこで、外側広筋の走行に着目します。
外側広筋は、大腿骨に平行に走行しているわけではなく、大腿骨に対して斜め下方に向かって走行しています。
この走行に沿ってストレッチすることが出来れば、より効率よくストレッチができるはずです。
外側筋間中隔に注目する
外側広筋は、大腿骨粗線の外側唇から起始するわけですが、さすがにその起始部は触れません。
しかし、外側広筋と大腿二頭筋長頭の間には、大腿筋膜で構成される外側筋間中隔が存在します。
この外側筋間中隔を利用することで、外側広筋の走行に沿ったストレッチが出来ます。
実際のストレッチ方法
まず、外側筋間中隔を探します。
これは意外に簡単であり、大腿部を上から外側に向かって指を進めた際に、一番凹みがある部分です。
この外側筋間中隔に指を入れて(指を引っかけて)、先ほどの外側広筋の走行に沿って斜め下方へ向かってストレッチしていきます。
基本的にはスタティックストレッチで良いと思うので、30秒ほどゆっくりと伸ばしましょう。痛みの出ない範囲で行う必要があります。
大腿筋膜張筋のストレッチ
外側広筋へのアプローチとともに、大腿筋膜張筋のストレッチも並行して行う必要があります。
理由はここまで述べてきた通り、大腿筋膜張筋(腸脛靭帯)が外側広筋へ影響を与えるからです。
大腿筋膜張筋のストレッチはメジャーなものなので、その方法については割愛します。
まとめ
外側広筋は、内側広筋ほど注目される存在ではありませんが、膝関節疾患の痛みにとっては重要な存在です。
とくに、腸脛靭帯や膝蓋支帯といった周囲組織との関係をしっかりと把握していくことが、病態の解釈の助けになります。